鹿島美術研究 年報第16号
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—清原雪信の作品とその画風を中心にる「ポリクロミー」がいかなる意図で,またどのようになされたのかを明らかにし,初期版画の機能を考察することが本研究の目的である。北方初期版画における「ポリクロミー」では,初期の手彩色の木版画とキアロスクーロの多色刷り版画がよく知られているが,実際はさまざまな用材や技法がみられ,おそらくはその用途と深く結びついていると考えられる。それらについては,これまで部分的に論じられることはあったが,用途あるいは受容層という観点から,総合的に把握するという試みはまだ行なわれていないのが現状である。また,版画の多色化は,絵画との関連をぬきにしては考えられないが,キアロスクーロなどの特殊な技法をのぞいては,こうした点からの考察もほとんどなく,本研究の意義は大きいと思われる。さらには,色彩を拒否したデューラーの作品が,後の16世紀末から17世紀初めのいわゆるデューラー・ルネサンスの時期に多色化されるという興味深い現象についても,このような観点から考察を進めていきたいという展望をもっている。⑬ 江戸時代初期の狩野派における大和絵様式の継承について研究者:尼崎市歴史博物館(準備室)学芸員伏谷優調査研究の目的は,江戸狩野派の作品の中でも,作品数は多いものの,「よくあるパターン」として詳しい検討がされてこなかった物語絵や歌仙絵など大和絵人物画について,様式の継承と,時代的背景や画家独自の表現による変容を明らかにしていくことにある。狩野派研究の上では,江戸城や御所,大寺院などにおける共同制作が重視される一方,物語絵,歌仙絵などの小画面についてのまとまった研究は少ない。実際には幕府・大名家・公家の奥向きには,このような作品の需要が多く,御用絵師として狩野派の絵師が制作する機会が多かった。結果として「よくあるパターン」の絵にならざるを得なかった面もあるが,狩野派の画業全体を考える上では検討する必要性が高い分野である。また,物語絵や歌仙絵は,土佐派・住吉派・琳派といった画系においても作品数が多く,狩野派だけの問題にとどまらず,江戸時代の大和絵の特質と展開を考える上でも重要である。画法の影響関係の指摘にとどまらず,その影響により新しい画風の展68 -

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