鹿島美術研究 年報第16号
96/116

(4)他者像としての近代〈日本人〉の身体像とつに,出産する女性に働きかけることによる人種改造がある。明治以降,医学の近代化政策により,男女の生殖する身体像はどのように変化したのであろうか?この項目では①「立派な日本人」を産み貧弱な身体を改造するための「母」として生殖する身体像,②それにより性的に差異化される身体,さらに,男性の生殖機能はどのように表象されてきたのかを扱う。従来「医事史の資料」と片づけられてきた図像を身体論の観点から読み解く。(3)病む身体「貧弱な身体」は,どのような身体と同一化・差異化されていくのだろうか。同一化される身体像のひとつが「病む身体」である。この項目では,①近代日本人の病う身体/健康な身体像,②清潔な身体像を人種や性の観点も含めて分析する。対象とするのは,疱癒絵,はしか絵,コレラ,結核,梅毒の図像,衛生展覧会出品の図像,医療史資料などである。これらにおいて,病はどこから来るのか,汚染源・汚染を媒介する者,病をうつされる者,患者の顔,疫病の神や治療・退治する者はどのような図像で表現されるかに焦点を当てる。最後に外国人のまなざす「日本人像」を分析し,自己表象と比較対照する。〈日本人〉像の定型的な表象にはいくつかのパターンが見られるが,たとえばそのひとつに「吊目」がある。デイズニー映画の最新作「ムーラン」に至るまで「吊目」として描かれるアジア人・日本人像は,枚挙にいとまがない。だが,なぜ吊目に描かれたのか,吊目が何を意味するのか,その系譜はどのような歴史を持つのか,などについては分析もされていない。本項目では,「吊目」の系譜とその意味についての分析が対象のひとっとなる。⑮ 明治期における毛筆画教科書の形成に関する研究研究者:岡山大学助教授赤木里香子明治期の美術教育に関しては,近年,新たな知見が付け加えられつつある。特に金子一夫氏の研究は,明治初期の鉛筆画教科書とその原本との引用関係の解明に大きな成果をもたらした。しかし,金子氏の研究以降も,毛筆画教科書の形成という問題は,ほとんど未調査のままで残されている。_ 70 -

元のページ  ../index.html#96

このブックを見る