とは今日の研究者にも混乱と戸惑いをもたらしている。一例をあげれば,周知の富本の代表的な風景模様である「大和川急雨」は,管見では先に雨の無い同風景がスケッチされ,「小橋」と名付けていた。その後,大正12年に夕立の雨が加わり,「橋頭初夏の雨」の名称を経て「大和川急雨」が成立する。しかし,一方で「小橋」模様も依然陶磁器の模様として描かれている。ところが,従来の研究ではそうした経緯は明らかにされておらず,今日でも「小橋」模様は,「安堵村風景」あるいはこれも「大和川急雨」と呼ばれている。こうした名称の混乱も,本研究によってほとんど統一できるのではないかと思われる。⑰ ロバート・スミッソンの芸術と思想研究者:愛知県立芸術大学専任講師小西信之(意義)アメリカに現地取材に行き,スミッソンら,60年代から70年代のアメリカのアースワークの作品を実際に見ることは,そのスケールを体験するという意味で,研究者にとっては大きな意義がある。またナンシー・ホルト(スミッソン夫人)や35歳で72年に他界したスミッソンを知る人に,時代の状況等を取材することにも同様の意義がある。(価値)スミッソンの作品は,前述のとおり,モダニズムとポストモダニズムの大きな転換点をなすものであり,彼の作品の考察を通じて,20世紀のアートの意義を再考察することは,それ自体,重要である。またそれを,マルチ=メデイアな表現方法を用いて実現することは,新たな評論・研究の発表スタイルの端緒となる,という価値があるだろう。(構想)今回の研究成果は,CDRom付でブックレットという形を考えている。ブックレットにおいては,研究者のテキストをメインとして,取材した写真やインタヴュー,Videoスチィール,CG画像等をモンタージュした,視覚的なテキストづくりを行う。CDRomでは,Video,CG animation,グラフィックなテキストが3次元の空間に融合する,-72 _
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