⑱ 明治・大正期における写生旅行研究研究者:郡山市立美術館本研究は,日本近代美術史における画家の写生旅行を総合的に調査研究することを第一の目的とする。申請者の所属する郡山市立美術館は,日本近代美術を収集の柱のひとつに据えている。とりわけ風景画に関しては,その黎明期にあたる明治初期の油彩画をはじめ,イギリス美術の影響下,明治期に全盛を見た水彩画の沿革を追う希有のコレクションを有する。したがって,本研究は同美術館に関係の深い風景画研究の一環として位置付けされる。本研究によって,近代日本における自然主義的風景画,ならびに日本人の自然観に関する見解に新たな一面が加えられることが期待される。また,諸新聞に掲載された紀行挿絵の実態を明らかにすることで,これまで取り上げられる機会の少なかった,画家たちの画業の一端が示されるばかりでなく,写生旅行と当時の新聞挿絵との関わり,ひいてはジャーナリズムと美術の地方波及という問題について,さらなる検討が可能となるだろう。将来的には,本研究に基づく展覧会の企画を予定している。⑱ 植民地朝鮮における美術政策研究者:静岡県立美術館韓国近代美術の研究では,植民地という関係を持つ日本からの影粋を朝鮮半島内でどのように内実化させていったかということが問題視され,それに対して「韓国性・アイデンテイティーの在りか」が常に問われている。これは,植民地という事情を除けば西洋を内実化しようと努めた日本近代美術と表面的には同じ様な構造を示している。しかし,この植民地という事情こそが大きな重みを持っているのであり,師弟関係と西洋化=近代化というパラメータだけでは,韓国近代美術を捉えきれない。韓国の研究者の間で「アイデンテイティー」が常に非常に強く探究される理由の半分はここにある。この点から,日本からも韓国からも触れにくい問題ではあるが,植民地における美術政策の重要性とその実態を検討することが重要であることがご理解いただ永山多貴子那-75-
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