鹿島美術研究 年報第17号
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日場茂ちの影響が見られるのだが,ただしそれは彼がラファエロやミケランジェロを引用するときと同じく,図像や構成の上にほぼ限定されており,それらは自然主義的で明暗対比の強い彼独自の様式によって処理されているため,一見その影響が判別しがたい。また,以上の考察によって,カラヴァッジオがナポリで描いた「慈悲の七つの行い」という一枚の画面だけで,ロンカッリ,ダルピーノ,アンニーバレ・カラッチの作品からの影聾が指摘できたが,これらは彼が1603年の裁判で有能な画家と認めた4人の画家のうち3人である。カラヴァッジオは,同時代の後期マニエリスムの画家たちを軽蔑して無視し,ミケランジェロやラファエロを正当な古典として意図的に模倣したという通念が根強いが,彼にはそのような歴史観は希薄であり,古典であれ同時代のものであれ気に入った作品を貪欲に吸収したのではないだろうか。そしてその記憶を,彼はローマを後にしてからも保ちつづけたのである。(3) 東京美術講演会本年度の東京美術講演会は,『19世紀パリの昼と夜』を総合テーマとして,高階秀爾・国立西洋美術館長の司会により,講師とコメンテーターを組み合わせる形式で開催された。時:1999年11月5日倹午後2時〜5時30分所:鹿島建設KIビル大会議室講演:コメンテーターコメンテーターこの美術講演会の詳細は,後日1999年度「東京美術講演会講演録」として刊行される。① 「鉄道をめぐる絵画,あるいは近代の夜明け」② 「オスマンによるパリ改造の真相」東京大学大学院総合文化研究科助教授―浦篤共立女子大学文芸学部教授鹿島慶應義塾大学大学院政策メデイア研究科教授三宅理一武蔵野美術大学講師隠岐由紀子-22-

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