鹿島美術研究 年報第17号
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—ーアンジュ一家の美術とその時代背景ー一—研究目的の概要① ナポリ,サンタ・マリア・ドンナレジ_ナ聖堂の研究研究者:東北大学大学院文学研究科博士課程建築に関して,遺例が少なく,具体的な指摘が困難なプロヴァンス地方のゴシック建築からの影響はひとまず置き,まずイタリアの托鉢修道会建築との関連を的確に指摘し,次にドイツ語圏の女子修道院の聖堂建築との類似を検証する。こうしてドンナレジーナ聖堂建築一般における,さらにはアンジュー家の建築一般におけるフランス・ゴシック的側面の過度の強調を修正し,ほとんど注目されることのなかった中欧地域との関係を視野に入れる。そして,そこにみられる共通の建築類型(身廊の上を長く延びる2階修道女席,Langchor等)の効果や機能,またその意味するところを当時の宗教的経験とりわけ修道女たちのそれに即して解釈する。絵画に関しては,まず図像の特異性を,それを直接利用し宗教的実践に生かした修道女たちを想定することによって明らかにする。これまでドンナレジーナ聖堂の「キリスト受難伝」連作とフランシスコ会士によって書かれた黙想実践の書『キリストの生涯の黙想』との関連が指摘されてきたが,それに留まらず,聖堂全体の絵画装飾プログラムにはボナヴェントゥーラの神秘主義的な著作が直接反映していると考えられる。聖堂内の比較的珍しい図像である「天使の位階」と「黙示録の婦人」は,この文脈の中で初めて理解されるものである。こうしたことは,これらの図像が特殊な建築的効果を備えた聖堂の中に適切に配置されていることから確認しうるであろう。本研究は,常に建築と絵画を複合的に考察し,それらを宗教的・社会的・思想的背景の中で理解しようとするものである。② 挿絵入りのビザンティン福音書写本におけるイメージの役割について研究者:早稲田大学大学院文学研究科博士課程瀧口美香従来のビザンティン写本挿絵研究は,個々の写本を「先例の模倣」として理解してきた。したがって,各写本の独自性よりも,その写本のモデルとなった写本を探すこ-35 -谷古宇尚

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