⑭ 第三共和制下のフランス美術行政とオディロン・ルドンの装飾作品をめぐってい成果を以てしても,従来の断片的事象の紹介に終始しているために五浦移転という大事に至り,唐突に武山という画家が登場する観を拭いえない。こうしたことから,木村武山の前期日本美術院時代の業績に関する調査研究は,武山が,五浦移転に至る経緯の中で,美術院の主要構成員である正員となったのは何時であるか,さらに,その後,大観・観山・春草が海外にいて不在の間に,国内にいた武山は,どのような役割を担ったかということを,主として文献資料に基づいて検討し,正員の変動の原因を探ると共に,変動に伴うであろう美術院の創作活動の変化について考察する。次いで,作品の存否や所在調査を行い,可能であれば作品の所蔵先での調査を実施し,その具体的データに基づき,武山画業の変遷を辿る。最終的には,こうした成果を踏まえて,武山没後60年という節目の年にあたる2002年度に,できれば主要作品を網羅するかたちでの木村武山展を開催し,それによって武山画業の総合的検証を試みたいと考える。研究者:名古屋大学大学院文学研究科博士課程村山紀子本研究は,これまでのルドン研究で見逃されてきた画家の作品における社会性や商品性を,改革を進めつつあったフランス美術行政,20世紀初頭の激動するフランス絵画市場および,ルドンが顧客を持っていた国際市場の中で,考察することを目的とする。1900年以降のルドンの作品に見られる装飾的要素が,作品の社会需要を高めるという意図と直接関連している点を考察の出発点とし,画家が国から注文を受け,報酬を受け取り,受勲や作品の買い上げという名誉を得た事実が,画家の生活や画家の作品にどう影響を与えたか,なぜその変化が起こったか,を明らかにする。また,国からの注文がフランスの伝統と改革の内容を反映しているのと同様に,1900年以降,数々の,国内外の個人コレクターから受けた注文に際して,作品の構想や規模は,しばしば注文者によって決定されている。このことは,晩年のルドン作品が画家の作品であると同時に,社会の動向を表すものであることを示している。本研究は,国立古文書館の行政資料や画家の書簡などの一次文献の読解を考証の柱とし,これまでにあまりに軽視されてきた,注文者(国営ゴブラン織り工場,政府)の意図・歴史・影響力,注文作品に関する具体的な要求,協力の記録を検討する。-44-
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