ては,『観古図説』,『徴古図説』,『好古図説』,また,日記として『奈良の筋道』,『椎の落葉』,『八重の残花』などが知られている。しかし,現在,刊行された著作としては,式胤の孫の蜻川親正編『観古図説一城郭之部ー』があるのみである。また,『東京国立博物館百年史』に式胤の事跡が紹介されているに過ぎず,近代日本の文化政策を研究する上で重要な人物であるにもかかわらず,その足跡が明らかにされているとは言い難い。そこで,本研究では,数多くの式胤の業績から明治政府による文化政策に多大な影聾を与えたと見られる明治5年の正倉院御物調査(壬申の調査)を取り上げたい。そして,壬申の調査に関連する文書,記録類の調査研究を通じて,明治初期の古器旧物の調査の実態を解明することを目的とする。また,式胤関係資料が公刊されていない現状を鑑み,活字化(公刊)する準備作業を行いたい。この壬申の調査については,「奈良筋道」が知られているが,これは後日清書されたもので,調査の際には野帳ともいうべき「社寺宝物検査手帳」が作成されていた。さらに,「東京下向記」など明治初期の日記類も残存しており,壬申の調査に至る式胤の動向をうかがうことができる。そこで,下記のように,調査,研究を行っていきたい。①写真撮影を行う。◎迂)の写真をもとに,解読作業をし,活字化の前提作業を行う。瓢に関連する資料調査を行う。今回の調査により,解読した文書,記録類が今後刊行されれば,美術史研究に広く貢献できる。⑳牧島如鳩作品の研究ー一仏画・イコンを中心に_研究者:足利市立美術館学芸員江尻牧島如鳩(1892-1975)は山下りんにイコンの手ほどきを受けた後,ハリストス正教会の伝教者として各地を転々としながらイコンをはじめ仏画,風景画,そして,仏画とイコンの図像が入り混じった彼独自の宗教画を手掛けている。如鳩の作品の多くは寺院や教会に納められ,一般にはあまり目に触れることなく現在にいたっている。それらの宗教画には土俗的な力強さがあり,他に類例を見ない独自性がある。一見すると神話や伝説を主題とした明治期の油絵を思わせるが,そこに脈打つ信仰心は明らか潔-50
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