鹿島美術研究 年報第17号
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ー一王宮装飾プロジェクトとカルトン作家の創意—分析する。⑳ 大元帥明王図像の彫像化に関する調査研究研究者:東京大学大学院人文社会系研究科博士課程佐々木守俊本研究は,大元帥明王像の図像学的考察を主な目的とするものである。この大元帥明王像がこれまで美術史研究の主な対象となりにくかった理由には,現存作例の少なさがまず挙げられよう。しかし,年代こそ下るものの,他の明王像を凌駕する怪異性を発揮する秋篠寺像や醍醐寺本画像は,当時,大元帥明王に期待された強大な効験をうかがわせるに十分である。いわば,大元帥明王は最も密教尊らしい尊格のひとつであったといっても過言ではないだろう。そして,大元帥法は国難払う大法として,真言密教界では大変重んじられた修法の一つであった。それゆえ,その造像は,当時貴族たちの重大な関心事であったはずである。白描図像が豊富に残るのも,平安末期から鎌倉時代における彼らの注目度を物語っている。いずれにせよ,大元帥図像の研究は,これまで主に仏画を対象としてきたが,ここでは,彫刻を中心に据えながら,その日本的な受容の意義を考えてみたいと思っている。一方,常暁の大元帥感得説話を実際の造像と関連づける試みは従来,ほとんど行われていなかった。僧侶とある特定の尊格が親密なつながりを示す例は,円珍と黄不動の関係が著名である。黄不動の場合,説話と造形作品との関連は明瞭であるが,大元帥感得説話は出所を常暁と断定し難く,像容に関する具体的な言及もないので,美術史的な観点からは取り上げにくいというのが実情である。しかし,そこには大元帥法を伝えた理性院流の解釈が反映されている可能性が強く,正統としての六面八胄像の確立とも無縁ではない。経軌を離れた図像の成立を考える上で,感得説話のもつ意味は重要であろう。⑮ ゴヤのタピスリーカルトン研究研究者:筑波大学大学院博士後期課程大坪日本は,ゴヤのタピスリーカルトンを所有しないため,タピスリーカルトンの紹介-53 慈

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