⑳ 近世肖像彫刻の研究_俗人像を中心に一一—が遅れている。しかし,タピスリーカルトンのテーマが風俗画であるため,ゴヤの麿術的な小作品や後の版画との関連は明らかであり,ゴヤの初期作品の紹介及び研究は我が国の所有するゴヤの版画集の解釈のためにも非常に重要であると思われる。1980年代以来,西欧において,ゴヤのタピスリー研究ぱ注目されており,その画題,アカデミーとの関連性等,新しいゴヤの初期作品研究の重要な部分となりつつある。タピスリーカルトンを研究することは,すなわち,18世紀の西洋全体からスペインの18世紀美術を概観することにもつながり,これまで西洋美術史において偶発的に登場したという解釈を免れ得なかったゴヤの芸術を18世紀の汎ヨーロッパ的コンテクストの中に位置づけることを可能にする。また,18世紀の文化史的側面についての調査は,19世紀の様相を考察する際にも要である。産業革命や近代化の精神がスペインにどのように浸透していったのか,そのプロセスを美術分野から調査し,スペイン美術史の解釈への新しい観点を示すことも不可能ではない。殊に,美術アカデミーの機能をより明確にすることが,近代美術研究のために必要であり,ゴヤの時代の美術界に光を当てることが,今日のゴヤ研究のみならず,19世紀美術研究において重要な課題となっている。ブルボン王家の目指した近代化の軌跡を王宮建築・装飾・美術の角度から再検討するという構想を私は抱いている。研究者:福岡市博物館学芸員末吉武史本研究の目的は近世俗人肖像彫刻の諸相を明らかにし,その存在意義を問うことであるが,必ずしも造形面でのアプローチのみに固執するわけではない。それは肖像が本来生きていることを目指して造られ,生きているものとして,扱われたことにおいて「彫刻作品」などというものではなかったはずだからである。そこにあるのは生々しい人間対人間の営みであり,少なくとも他者として拝み奉ることではなかったであろう。幕末にあらわれた“活き人形”による作品,福岡・隣船寺蔵「木造永島良節像」は,着衣を前提とした裸像として造られたうえ,体毛は全て植毛であらわすなど肖像としては極めて極端な仕様ということができる。しかし,それゆえ,肖像とは本来何であ-54 -
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