鹿島美術研究 年報第17号
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⑳ 応永詩画軸の研究ー一大大岳周崇鶉賛の山水図を中心にして一一は,6年間という短い期間ではあったが,その後の日本の近代美術に多大な影響を残したことは,既に多くの先行研究によって指摘されてきた。絵画教育に関しては,初代教授であったフォンタネージが今日でも19世紀風景画史上にも名前をとどめているように画家としての技量に長け,また弟子諸氏の伝えるところによれば人間的品性も高い人物であったためか,彼の功績ばかりが注視されてきた。しかし工部美術学校は,いくつかの問題はあったとはいえ,ファンタネージの帰国後も4年間存続した。後任のフェレッティが不評により解雇された後に,新たに本国から招聘され同校で3年間美術教育を行ったサンジョヴァンニも,フォンタネージと同様に日本における美術教育史を考察する上で重要な人物だと思われるが,彼については殆ど不明のまま今日に至っている。実際,画家サンジョヴァンニはイタリアの美術史上から忘れ去られてしまっており,彼についての研究はたやすいものではない。しかしながら,工部美術学校の絵画教育の歴史的な意義を考察する上で,サンジョヴァンニ研究は必須事項である。申請者は,イタリアの美術史上に名前をとどめていないという事実が,すなわちカ量のない美術家であったということを必ずしも意味しないと考え,この事実は19世紀イタリアの美術制度とサンジョヴァンニの画家としてのあり方との関係に起因しているのではないかと考えている。よって19世紀イタリア美術をとりまく諸相について調査研究し,それによって画家の理解を深めようとしている。申請者が行っているエ部美術学校に関する研究は,本邦初の本格的な西洋美術教育機関であったエ部美術学校そのものへの理解,同校の教師各人のさらなる理解ひいては日本近代美術の理解に寄与するにとどまらず,イタリアにおいて今日では忘れ去られてしまっている美術家らの本国での再評価を促すことになるだろうと思われる。申請者のサンジョヴァンニ研究は,イタリアにおける19世紀イタリア美術史研究にもささやかな貢献をすることになるだろう。研究者:東北大学文学部助手畑応永詩画軸の個別の作品については,従来,具体的な考察は少ないが,この研究の状況に対し,本調査研究では大岳周崇(1345-1423)の事跡に注目し,彼の周辺で盛ん-57 -靖紀

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