によって得られた結果に基づいて,関連の史資料を詳細に分析する。聖人伝テクストやイコンについても併せて考察の対象とする。そのような調査,研究をおこなうことによって,14世紀マケドニア地方における聖ニコラオス崇敬の実態に迫ることは勿論,広く東方正教会文化圏における聖人崇敬全体の流れをつかむための,大きな手掛かりを提供できると期待される。さらに,教会堂の装飾プログラムにおいて,聖人像や聖人の説話図像が担わされていた機能,及び,それらがどのように受容されていたのかという問題を,より具体的なかたちで,歴史的美術史的に位置付けることができると期待される。本研究は長期にわたる総合的な計画のもとに構想されており,ビザンティン及びロシアの宗教美術をつうじて,共通して大きな関心をもたれている聖人図像の問題解明に貢献できると考えている。⑫ 近世初期日本美術における意匠性_和歌主題の造形化を手がかりに_研究者:三重県立美術館学芸員佐藤本申請課題では,「誰ケ袖図」や「誰ケ袖図」と「意匠性」という点で共通すると思われる「柳橋水車図」「武蔵野図」という画題を統一的視点から捉え,江戸時代の美術の特質の一端を明らかにすることを目的としている。これらの画題は,蒔絵調度にも施されることがあり,さらには屏風という大画面に絵画化される以前から手掛けられていたと考えられる貝合わせ,扇面などにも用いられているため,このような視点からの研究により,絵圃に限定されない美術全体の様相を明らかにすることができる。この点に本課題の意義がある。また,従来このような視点からの研究が行われておらず,本申請課題が新しい視点からの研究であるという点に本研究の価値があると考える。これらの画題は筆者不詳の作品が多い。一方で,日本美術における装飾的様式の作品といった場合,しばしば琳派の画家の名があげられている。本研究の構想の中には,江戸時代初期に活躍した俵屋宗達に代表される琳派の画家たちとその同時代の作品群とを「意匠性」という概念で包括して,江戸時代初期美術の様相にひとつの指針を示することが意図されている。このことは,一般に「装飾的」「平面的」であるという点が強調させることの多い日本美術の特質についての考察にもつながると考える。59 -
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