⑬ 物語絵の作画手法に関する基礎研究――凹線を用いた下絵について―研究者:和泉市久保惣記念美術館主任学芸員河田昌之やまと絵の制作過程には,①下絵→②彩色→③描き起こしの手順があることが知られている。現存する作品,例えば源氏物語絵巻(徳川美術館,五島美術館蔵)には,顔料が剥落した部分にラフな墨線で引かれた下絵が見られるものがあり,何本も引きなおされた下絵からは絵師の推敲の跡がうかがえる。この過程では,下絵を描くことが作画の基礎として重要な作業であることがわかり,下絵を検討することが画面構成の成り立ちを考える手掛かりを与えてくれる。下絵には墨線だけを用いる場合と,角などのように先端が硬質の筆記具を用いて紙面にくぽみの線(凹線)をつける手法を併用する場合がある。凹線を併用していることに気づいたのは,1992年に開催した「白描絵」展(主催:和泉市久保惣記念美術館)を企画,担当したときであった。墨線だけで完成される白描絵において,著色画の場合に見られるような下絵を描くのかどうかという疑問を常々もっていたが,展示作品を精査している段階で,数点の物語絵から凹線下絵が発見できた。凹線の発見がむずかしいため,これまで指摘されなかったものと思われるが,白描の物語絵に確認できたことによって,著色の物語絵も調査の対象に加えて精査することで,凹線がやまと絵の下絵制作の手法として確立されていたことを明らかにしていやまと絵の下絵制作における凹線の使用は,これまで指摘されなかったことであり,作画状況が具体的に解明される点で価値がある。また,やまと絵研究にとどまらず,料紙装飾や工芸の絵付けとの技術面での関連,あるいは国語学における角筆資料との関連などに研究領域を伸ばすことが予測される点からも,調査研究の意義は大きい。⑭ 室町・桃山時代における男性の小袖型服飾に見る年齢による差異研究者:大和文華館学芸員澤田和人この調査研究は「なぜ桃山時代の服飾の遺品に華やかなものがおおいのか」という素朴な疑問に端を発するものである。そして,その華やかさが端的に具現されているきたし沿-60 _
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