遺品とは具体的に言うと,上杉神社所蔵の伝上杉謙信所用のものをはじめとする「胴服」の一群である。「胴服」は詳細は省くが,もともとは小袖型をしている服飾であったといってよい。華やかさの問題を考察するには,二つの視点を持って迫る必要があると考えている。一つは,歴史的展開という視点である。この視点からは室町時代から桃山時代における展開をたどって,その時々の時期の特徴を抽出し,具現されている華やかさが,ある一定の時期の特徴の産物であるのか否かを判断することとなる。もう一つは同一時期における同一服飾に示される時間差,つまり年齢がいかにある服飾の特徴に影響を及ぽしているか,という視点である。この視点からは,具現されている華やかさが,当時いかなるものとして評価されるべきものであったのかの一端も知ることができよう。そして,後者の試みが,この調査研究である。服飾遺品の制作年代については,従来の研究では,地質の組織,文様,仕立,形態の特徴をもって説明するのが主流である。しかし,室町〜桃山時代のうぶな状態の完形品は数が極めて限られており,比較材料をこと欠く状況にある。また,伝承所用者がある場合でも,それはあくまで伝承であって決定的ではない。従来の研究方法でもって得られるのはその服飾個別の特徴であって,本来的には年代の特徴ではないだろう。もっとも文献でもって補足する場合もある。ところが,その文献についても,いわゆる「故実書」を安易に引いて,それで済ませてしまっている。しかしながら,つたない私見では,故実書はそのままでは援用するにはたえず,特に歴史に関して考える場合は誤解を生じやすい。現行の主流をなしている研究方法は,大いに問題があると言える。遺品の制作年代の決定には,様々な角度からの状況証拠を積み重ねることが求められる。特に歴史的変遷をおさえ,それに即して遺品の制作年代を推し量ることが最も説得力をもつものと考えられる。遺品自体は欠如するものの,文献や絵画といった手掛かりがある。これらを活用すれば,かなり丁寧に服飾の変遷を跡づけることができるであろう。この調査研究は文献・絵画の活用を課題としたい。そのような方法をもって進め,今までにない研究方法の開拓をも試みることとする。61 _
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