⑮ 1810年代後半のゴヤの作品における民衆像の変容1808-14年の独立戦争中に描かれたと思われる《水売り女》《ナイフ研ぎ師》の力強⑯ 来館者・利用者の美術館イメージについての研究研究者:大阪大学大学院文学研究科博士課程宮崎奈都香ゴヤの版画集『妄』は,その独特の表現的スタイルと主題解釈の困難さによって,ゴヤ研究史はもとよりスペイン美術史全体においてももっとも未解決の要素に充ちた作品である。本作品はこれまでの研究史において,戦争とその後の圧制という体験から生じた画家の絶望あるいは不安といった,多分に個人的な側面から語られる傾向にあり,綿密で説得力を備えた研究は未だ乏しいといえる。く英雄的でさえある民衆像から,この『妄』の激しく歪曲されたグロテスクな表現にる過程は,ニューヨーク・フリックコレクション所蔵の《鍛冶場》あるいはこの間彼が残した膨大な素描等において,その変化の跡を垣間見ることができる。しかしながら,これらの作品の制作年代・内容解釈・図像的源泉に関する未解決・意見の不一致は,その変化の過程をより詳細に辿り,具体的解説を与えるこを,極めて困難にしている。以上の立場から,『妄』に典型的に見られる彼の民衆表現により本質的な考察を与える題意一段階として,本小研究では,特に独立戦争以降『妄』に至るまでのゴヤの民衆像について,その視覚的・文学的源泉を検討しつつ,より同時代的な文脈に沿って具体化された形で,その特質を浮き彫りにしたいと考えている。研究者:ブリヂストン美術館学芸員貝塚これまで美術館来館者,利用者の属性や行動様式,美術館体験の実態を探ろうとすると,まず欧米の研究報告に頼らざるを得なかったのだが,その中身は,日本よりも顕著な社会の階層性,異なる学校教育カリキュラム,異なる行政システムなどの社会的・文化的背景の相違によって,そのまま日本の美術館現場には役立てるのは難しいものであった。今回,調査研究の技法は欧米の事例に学びながら,日本社会の現状に即した方法を模索していく。この調査研究の目的は以下の3点に集約される。健-62-
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