鹿島美術研究 年報第17号
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⑳ 欧米に流出した「具体」の絵画作品の調査研究研究者:兵庫県立近代美術館学芸員平井章一本調査研究の第一の目的は,欧米に流出した「具体」の絵画作品を調査し,ひいては「具体」の絵画作品の全容を明らかにすることにより,それらの特質や「具体」における絵画の意味を論じる基盤を整備することにある。「具体」の絵画グループとしての側面に光を当て,初期の野外や舞台を使った作品と絵画作品とを,優劣の関係ではなく等価な関係において捉える新しい視座を提起することができれば,これまで先駆性の突出ばかりが強調されてきた「具体」再評価のあり方を根本的に転換させる契機となるだろう。本調査研究の第二の目的は,実作品の発掘と紹介である。欧米に流出した絵画作品のすべてが現存しているか否かは現時点では定かではないが,調査の結果現存や所蔵者が確認され,実作品を眼にする機会に恵まれたものについては,所蔵者の承諾が得られる範囲でそれらを広く公開し,検証する場を持ちたいと考えている。具体的には,勤務する兵庫県立近代美術館で2001年春の開催に向けて準備を進めている「具体」の代表作家,白髪一雄の回顧展や,結成50周年に当たる2004年に開催を計画している「具体」の大回顧展への出品を検討したい。国内に購入者が存在しなかったため,質の高い作品ほど優先的に欧米に持ち出されたことから,これらが実現すれば「具体」の絵画作品の特質を実証的に示すことが出来るとともに,停滞してきた国内における「具体」の絵画作品そのものの研究を一気に活性させる契機となるにちがいない。⑩ インドネシア・スマトラ島のビダ(男性用腰布)について研究者:福岡市美術館学芸員都築悦子インドネシアは世界に冠たる伝統染織の宝庫として知られる。それらは,今世紀の半ばまでには欧米を中心に民族学的な視点で収集され,論じられてきた。後にその美的な価値にも焦点が当てられ,ジャワ島のバティック(更紗)やスンバ島のイカット(絣)などに関しては,1980年代以降,とみに研究や展覧会が行われるようになった。しかし,スマトラ島の染織に関しては,1999年にアメリカのUCLAのFowlerMu-seumで西スマトラ朴1のミナンカバウの染織に関する大展覧会が開催された以外,いま65 -

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