鹿島美術研究 年報第17号
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従来のアメリカのジャポニズム研究では,(l)の造形上の影響関係,たとえばホイスラーやフランク・ロイド・ライトにみられる日本美術・建築からの影響を論じる研究が中心であった。しかし,当時一般に日本美術がどのように紹介されており,どのような日本イメージがあったのか,という背景には特に注意が払われていない。また(3)に関して,フェノロサ研究は日米双方でおこなわれているが,それはアメリカの日本美術受容という視点に立つものではなく,フェノロサの個人研究と明治の日本画と美術行政の関わりに終始している。したがって,日本美術受容を網羅的に考察するためには,その背景や一般的な意味での日本美術のイメージの分析を加えた広い視野からのアプローチが必要であると考える。の民族社会への嗜好に連動したアンチ・モダニズムだと論じている。リアーズの精緻な分析に基づいた論は,確かにボストンを中心とする上中流階級に対しては説得力をもつが,一般大衆にその嗜好を敷術することは難しい。本研究が明らかにしようとしているのは,大衆レベルでの日本美術受容の実態である。また,フランスを中心とするヨーロッパのジャポニズム研究に比して,日本国内では,アメリカのジャポニズム研究はたち遅れている。フランス美術からの影響を排除したアメリカ美術の固有性が問題視されていた当時のアメリカにおけるジャポニズムは,おのずとその受容の在り方はフランスとは異なっていたはずである。この意味で,アメリカのジャポニズムを論ずることで,当時のアメリカがどのように美術に固有性を見出していったのか,そして日本美術受容がそれとどのように関わっていたのかを考察することは,新たな観点となるはずである。研究者:法政大学,明治大学,横浜国立大学非常勤講師武田昭彦私の研究の目的は,ジャコメッティ芸術における後期作品の展開の意義を,矢内原伊作の遺した資料をもとに,その初期からの首尾一貰した探究_知覚的視覚の認識行為を,哲学的にも,美術史的にも明らかにすることである。従来の美術史において,ジャコメッティはシュルレアリスムの芸術家として,あるいは,20世紀美術の異端・孤高の芸術家として取り上げられている。しかしながら,T.J.リアーズは,当時のアメリカの日本あるいは日本美術への興味を,古代や未開⑮ ジャコメッティ芸術における後期作品展開の研究-69 -

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