鹿島美術研究 年報第17号
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未発表,未整理の新しい資料が眠っており,これらを分析することによって新しい参加者の視点を発見できることが期待される。現代では失われてしまった視点や発想も存在していると思われ意義深い調査である。この「内からの視点」「外からの視点」に交差させることによってより歴史をより立体的に捉えることが可能になると思われる。日本の近代的な大学組織の形成や美術館・博物館の形成が丁度この時代にあたり,当博覧会の参加者も近代日本の様々な組織の設立に貢献している。今日,大学や美術館・博物館は大きな改革の嵐の中におり,時としてその方向性を見失いがちであるが,当時の人物の超分野的な業績には学ぶ点も多く,当研究は大学や美術館・博物館の方向性に対して新しいヒントを与えるものであり,急務といえる。最後に,当研究の発表は印刷物の他に,研究資料のデータベースの公開など新しい方法も導入する予定である。また,当博覧会には技術者や科学者が多く参加した。彼らの試行錯誤を追うときに理系出身である申請者自身の経験が大きく助けになると考える。⑰ 御徒士町狩野家史料の調査研究研究者:東京藝術大学大学院美術研究科博士課程山畠真由美本調査研究によって御徒士町狩野家史料の画像資料などが整理されることで,狩野派が共有したイメージの源泉の一部が明らかとなり,それらが狩野派の現存作品についての理解の手がかりとなると考えられる。また,従来の狩野派史料に同家史料が加わることで,狩野家における絵画制作の輪郭がさらに明確なものになっていくと考えられる。たとえば,本史料には江戸城西之丸芙蓉之間,焼火之間などの小下絵の模本がふくまれているが,そうした障壁画の絵様と他の江戸城障壁画史料との関連などを考察することも重要な課題となってくるだろう。本史料の調査研究は,以上のような意義をふまえると,狩野派絵画史および江戸絵画史における重要な基礎史料研究としての価値をもつものといえる。-71

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