⑱ 日本中世絵画における聖地図像の受容と展開研究者:学習院大学大学院人文科学研究科博士課程水野僚本研究の目的は,日本中世絵画に描き出された様々な「聖地図像」(=聖なる土地を表象する図像)を検討し体系化することでそれらの図像に託された意味とその機能を明らかにすることである。従来,聖地図像を扱った研究としては,宮曼陀羅や社寺縁起絵,参詣曼陀羅などいわゆる「霊地」「聖地」とされる寺社の景観を描いた絵画を論じたものが挙げられる。しかし,その多くは個別の作品研究にとどまるものであり,「聖地図像」全般を扱った研究は皆無といえよう。また,従来の研究では景観表現や縁起モチーフに関心が集中していたため,それ以外の景物や動植物モチーフに関しては言及されてこなかったとえる。ところが,「聖なる土地」を描き出した様々な画面を広く見渡すとそこには図像の定型化が見られ,一見何気なく描かれたように見える図像も本来はその場所が「聖域」であることを視覚的に示すための重要なモチーフとして意図的に描き込まれたものであることが指摘できるものも多い。逆にいえば,それらの定型図像を認識することができれば,これまで見落とされてきた聖地図像が改めて理解されるばかりでなく,画面の意味内容を解釈する際の大きな手助けとなるといえるのである。そこで本研究では,宮曼陀羅に代表される神道絵画や社寺縁起絵,祖師伝絵,物語絵巻,仏伝図,経絵等の作品の調査を通して,従来注目されてこなかった様々なモチーフー一具体的には景観構図,建築表現やその構図,山水表現,動植物や雲などの景物,彩色など_に注目したデータの集積および分析を行う。そしてそれらを分類・体系化することでそれらの図像に託された意味や機能を探り,聖なる土地を表す典型的な図像と表現形式がどのように形成されていったのか,またどのような変遷を遂げていったのか明らかにしたい。更にその理由についても文献史料を用いた時代背景等の考察を交えて探究したい。本研究において中世の人々が「聖なる土地」をどのように認識し,いかなる図像によって理解していたかを具体的に知ることは,様々な視覚的表象の意味や様々な絵圃史料を読み解く有効な手段となるだろう。-72
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