て特異な作品群が,なぜこの一代に集中して見られるのかという疑問から発して,その生産背景を考察したものである。これは明代陶磁史において研究が立ち遅れている状況にある中期の官窯の様相の一端の解明にもつながるつもりであり,今後の研究において明代陶磁の全体的流れの把握に役立つものと考える。研究の方法現在各地に分散するアラビア文字の装飾のある青花資料を収集してその作品分析を行い,それらに共通する特徴を見出した。資料分析による発見から生産体制に関する仮説を導き,文献資料からその仮説の傍証を行った。本研究において最も重要な発見であったのは,伝懺するアラビア文字装飾青花の款銘表記に規則性があり,かつ,それが正徳という時代の官窯において非常に重要な意味を持っているということである。明代陶磁を代表する景徳鎖には,宮廷用命の御用磁器を専門焼造する官窯というものがあった。官窯製品(officialware)は明代を通じ「大明□口年製」という皇帝款年製銘が習慣的にいれられ,装飾的にも五爪の龍文様に代表されるような官様式表記法を着眼点としている。官窯の設置年代についてはさまざまな論議が交わされているところであるが,明時代初期の宣徳年間には装飾的にも官様式が定着し,帝款年製銘の使用が習慣化する。この時点ではその表記法は様々でまだ規則性は見られないが,以後の明時代を通じ,官窯製品の大半には六字銘(「大明□口年製」)が記されるのが常となる。ところが正徳においては,官窯製品の大半の銘は四字銘(「正徳年製」)であり,前後の時代に通例の六字銘が記されるのは,本研究で問題としているアラビア文字装飾の青花と,さらに,元末・明初期から踏襲されている伝統的な官様式の文様の作品である。このアラビア文字という新趣の装飾文様の製品と元末明初期以来の伝統的な官様式の製品の銘記の共通性,かつまた,正徳の官窯製品の大半に従来習慣化していた六字銘ではなくあえて四字銘を付し,アラビア文2 文献資料による考察l 資料分析による発見研究の着眼点:官窯の官様式と款銘表記方法(official style)を備えて民窯製品とは区別されていた。本研究ではこの官窯の款銘のl 資料分析-20-
元のページ ../index.html#40