釈迦多宝仏と他の図像,例えば,維摩文殊・弥勒•本生図•仏伝図等と共に構成さ研究目的の概要① 中国における5■6世紀の法華経美術の研究研究者:名古屋大学大学院文学研究科博士課程法華経美術はインドと中央アジアの地域では現在のところ明確でなく,中国中原地方で成立し,展開した初期の大乗仏教美術の代表と言える。法華経美術の成立と展開は,中原地方の大乗思想の重視と流行に密接に関係している。後漢時代には小乗仏教と大乗仏教がともに中原地方に伝播するが,その後,大乗仏教がとくに重視される。400年頃には鳩摩羅什の長安での訳経によって,大乗経典の漢訳が一層完備された。『妙法蓮華経』はその最も重要な経典の一つである。中国の法華経美術はほとんどこの経典をもとにして成立したものである。当時の『法華経』の学者はしばしば『維摩経』『涅槃経』『華厳経』などをも兼ねて研究し,法華経美術においても他の経典と融合した複雑な様相を示している。それゆえ,法華経美術の調査と研究において,『法華経』に基づくものだけでなく,関係するその他の経典も視野に入れて,その表現を全体のプログラムの中で考察しなければならない。中国5■ 6世紀の法華経美術は,当時の仏教美術の中心的なテーマとして極めて重視されていると筆者は考える。しかし,法華経美術はどのように成立して展開したのであるか,また,どのような仏教思想や社会背景をもとにして発展したかという問題は,十分に研究がなされていない。法華経美術の現存のもっとも早い作品は,5世紀前半の甘粛省姻霊寺石窟の西秦壁画である。5世紀後半になると,山西省雲岡石窟で大きな発展を遂げ,同時に南東部の定州と青州地方に波及し,さらに南へ洛陽地方に達し,また南西部へは長安地方と河西地方(河西回廊)に波及する。6世紀には,法華経美術の作品は中原地方・河西地方と四川地方に数多く存在している。申請者はこれらの地域の作品を研究の対象として実地に調査し,法華経美術の成立と展開の様相を全体的な展望の下に,実証的に研究しようとするものである。れるのは,どのような主題と意味を示しているのかという問題,および図像の組合わ-33 李静烹
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