鹿島美術研究 年報第18号
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② ロバート・ラウシェンバーグの神話的世界_1950年代の作品を中心に_せの変化と『法華経』に基づく新しい図像の出現を通して,それと関連する仏教思想と社会背景を明らかにすることは,この研究の中心的な課題である。研究者:大阪大学大学院文学研究科博士後期課程池上裕本研究は作家論としても十分に成立するが,必然的にラウシェンバーグが親しくしていたサイ・トウンブリーやジャスパー・ジョーンズなどの芸術家達との関連にも触れるものである。ジョーンズとの関係に比べるとトウンブリーとの関係はこれまであまり注目されていないが,ラウシェンバーグが転写の技術を発見したり,ローマで古典世界の遺物に直接触れたりしたのはトウンブリーとの旅行中であったことを思えば,その重要性を認識し研究することは本研究の一つの大きな意義となるであろう。また,イタリア滞在中にイタリアの現代美術作家達の作品に触れ,刺激を受けた経緯を詳細に跡づけることも本研究の中で明らかにされるべき課題である。その後のラウシェンバーグのシルクスクリーン絵画での世界的成功,その広範な影評力を考慮に入れると,ラウシェンバーグの初期作品群の理解は60年代アメリカ美術を考察するための必要最低条件でもある。特にラウシェンバーグのイコノグラフィの検証はアメリカをどう表象するかというより大きな問題に答えるためのケース・スタデイとして非常に意義深いものである。本研究はイェール大学に提出する博士論文のる。ラウシェンバーグとトウンブリー,ジョーンズ,そしてケージやカニングハムといった友好関係若しくは恋愛関係で結ばれた芸術家達が,いかに相互に作用し合いながら彼らのサブカルチャーを形成したかをその最初期の核心に迫って検証することを目的としている。彼らが全て同性愛者であるという事実は勿論偶然ではないが,視野の狭いゲイ・スタデイーズヘと堕することなく,あくまで実証的な作品研究に即しての論考を追求するところに本研究の価値があると考える。その研究成果によって,60年代以降のアメリカ美術を現代思想的な観念だけではなく実証的なデータを用いて論じることができるようになるだろう。近年アメリカでも実証的な作品研究の重要性が再認識されつつあり,その流れにも具体的な成果を貢献できると自負している。-34 を成すものとして構想されてい

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