鹿島美術研究 年報第18号
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—図像プログラムの意味とその宗教的・社会的機能について—③ ルネサンスの夢に関する研究一ーデューラ_の《幻想》を中心に一一研究者:国立西洋美術館主任研究官佐藤直樹西洋の美術作品には,古代から現代に至るまで夢の描写が様々なかたちで表現されている。それは,物語の主人公が見た夢を表したもの,あるいは芸術家自身が見た夢の表現である。夢は,精神分析医フロイト(1856-1939年)の登場で,美術において大きな役割を演じることとなる。例えば,シュルレアリスムのように,意識下の非合理な領域を切り開いた表現がひとつの潮流となった。想像力の解放と合理主義への反逆は,フロイトの影響なくしては決して語れない。しかしフロイト以前から,「夢」が造形美術に与えた影響は決して少なくはなかった。例えば,今回,研究の課題としたドイツ・ルネサンス期の画家アルブレヒト・デューラーは晩年に,自分が見た悪夢を水彩スケッチに記録し,自ら夢を判断した文章まで添えている。それは,油彩画や版画ではなく,自分のためにだけ描いた私的な作品であることから,そこにルネサンスの人文主義的な塊の解放を認めることが出来るであろう。この作品は,そうした観点から見ると,美術史における「夢」という主題の転換にあたる重要な作品であるはずであるが,これまで等閑視されてきた。申請者が計画する研究は,心理学的なアプローチによって,これまで見過ごされてきた芸術家の精神世界を解明する可能性に満ちている。今回申請する「ルネサンス期の夢の研究」を手がかりに,歴史的,地理的により広範な視野をもった研究に発展する可能性は大きい。さらに今後は,「フロイトと夢と美術」という精神分析的かつ心理学的考察が,中期的目標として設定されよう。最終的には,古代から現代に至る「夢の描写」すなわち美術における「夢の歴史」をまとめあげることを目的としており,今回の調査研究は,その計画に向けての第一歩となるものである。④ オルカーニャ作タベルナーコロ(フィレンツェ,オルサンミケーレ聖堂内)研究研究:慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程本研究の目的は,第一義的には,オルカーニャ作タベルナーコロの図像プログラム出佳奈子-35 -

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