⑤ 金剛寺蔵「野辺省蒔絵手箱」の意匠の成立についての典拠及び意味を解明し,更には,この図像プログラム及びタベルナーコロそのものの宗教的・社会的機能を明らかにすることである。図像プログラム及び機能の問題は,本作品についての先行研究において,これまであまり触れられてこなかったが,本作品を研究していく上で明らかにすべき点であると思われる。なぜならば,本作品の図像プログラムは,タベルナーコロとして分類される他の作品群に比して異質なものであり,このことは,本作品が,元来は聖なる画像や聖遣物を守るためのものであるタベルナーコロ以上の,何らかの意味及び役割を担っていた可能性を示唆しているからである。従って,図像プログラムの典拠及びそれが意味するものの解明は,オルサンミケーレの聖母同心会の活動におけるこれらの図像及びタベルナーコロそのものの機能を解明することにもつながる。そして,これらの点は,これまでの先行研究においてあまり扱われてこなかったため,本研究は新たな作品研究として意義を持つと思われる。しかしながら,このような研究は更に,これまであまり研究されてこなかった,当時の美術ジャンルの一つであるタベルナーコロという装置そのものの役割や意味への考察にも繋がるので,本研究はタベルナーコロという美術ジャンルの研究の一翼を担うものともなり得ることが予測され,この点においても,14世紀後半のイタリア美術史研究としての意義を見出すことができるだろう。更に,14世紀後半のトスカーナ,とりわけフィレンツェ美術は,ミラード・ミースによる研究「Paintingin Florence and Si~nna after the Black Death」(1951年)以降,ペストや経済的衰退などの不安の時代を反映しているというミースの見解に対する批判・議論を通して扱われることが多かったが,本研究も又,当時のフィレンツェ社会において重要な位置を占めていた同心会という俗人による宗教団体及びフィレンツェ共和国政府の活動と,それらに結びついた美術の役割や位置付けに注目し,調査・研究を進めることによって,この時代の美術についての新たな見解を提示することをも構想に含めている。研究者:関西学院大学大学院博士後期課程猪熊兼樹調査研究の対象は,平安時代後期の工芸意匠である。平安時代後期は,従来より日-36 -
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