本独自的な美術様式である「和様」を形成した時期とされており,事実,この時期の工芸意匠は以後の日本美術の古典様式のひとつとなったと考えられる。けれども,平安時代後期の美術様式とは全てを日本独自的にはぐくまれたという視点で論じるのに問題があり,そこには,五代・北宋を通じて発達した中国美術様式の影響下に形成されたと考えられる点も少なくない。奈良時代から平安時代前期・後期にかけての,相華文様という架空の花文様の様式的変遷を追求すると,その様式的展開は,中国の唐,五代,宋にかけての宝相華文様の展開と共通する。蒔絵手箱などの蓋裏に散見される折枝花文様は,平安時代後期に育まれた日本人の自然賞玩が成立させた意匠であるように説かれることがあるが,折枝花文様というのは,近年出土の相次ぐ宋の工芸意匠に散見されるものと共通する要素が多い。春日大社蔵「沃懸地螺釧毛抜形太刀」や金剛寺蔵「野辺省蒔絵手箱」などには,写生表現による鳥獣植物の意匠が窺えるのであり,これらは従来,日本独自的という意味での「和様」の言葉の下に論じられる傾向があるのだが,そこには宋画様式と考えるべき点がかなり認められる。以上のように,平安時代後期の工芸意匠のなかには,中国美術との関連のなかで理解するべきものが多いように考えている。日宋貿易史や仏教史などの方面からは,平安時代後期から鎌倉時代にかけての日中交流の盛んであった事を明らかにする研究が多いけれども,美術史の方面からは,その点を積極的に説く研究は少ないようである。本研究では,美術史から平安時代後期の日中交流史を考えたい。⑥ イギリスのジャポニスムーーファイン・アート・ソサエティの活動について_研究者:横浜美術館学芸員沼田英子我が国におけるジャポニスム研究は,学術的調査に基づく展覧会や書籍の出版によって,この十年間で飛躍的な発展を遂げた。特にフランスにおけるジャポニスムについては,画家や画商についての個別の詳細な研究が進み,その受容の実態までかなり明らかになっている。イギリスのジャポニスムについても,1992年の展覧会「Japanと英吉利西」展などによって当地で日本美術が大いに享受された事実や両国間の美術の交流について紹介され,研究者の注目を集めた。しかし,これまでホイッスラー,チャールズ・ワーグマンなどについては詳細な研究が成されているが,アルフレッド・イースト,アルフレッド・パーソンズその他の来日画家についての詳細な個別研37 -
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