鹿島美術研究 年報第18号
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(1) 「絵画的側面」一原画は洋画や日本画といったジャンルに拘束されることが少ない究や,イギリス国内における日本美術の普及と受容の実態については,十分調査されているとはいいがたい。本研究で取り上げるファイン・アート・ソサエティは,日本美術の普及という点で,フランスにおけるジークフリート・ビングに相当する役割を目指していたと言われる。しかし,画家を日本に派遣して風景画を制作させたり,同時にイギリスの革新的な画家たちを支援して新しいイギリス美術の発展を推進するなど,独自の展開をした点は興味深い。ファイン・アート・ソサエティという商業画廊の活動を調査することによって,イギリス独自の日本美術の受容の実態を浮き彫りにすることができると思われる。⑦ 絵本原画の研究_『こどものとも』をめぐって一一研究者:宮城県美術館上席主任研究員有川幾夫なくオリジナルな物語を基本にしたことだが,原画制作の面からは,従来の童画家ではなく画家や彫刻家を起用したことがあげられる。最初の50号までに堀文子,朝倉摂,秋野不矩,丸木俊子,池田龍雄,村山知義,佐藤忠良などが原画制作に参加した。またその中で次第に新しい原画制作者も台頭し,長新太,堀内誠一,加古里子,井上洋介,おおむら(やまわき)ゆりこなど,その後の絵本に影響を与えた作家が次々と現れた。今回の調査研究の第一の目的は,この『こどものとも』の原画を「物語る絵画」として,絵画の観点から捉え直すことである。これによって純粋美術か周辺美術かという枠組みにとらわれることなく,絵画のもつ農かな可能性を探ることになり,ひいては美術館活動の対象として,その保存や公開の方法を本格的に検討する基礎にもなる。絵画としての『こどものとも』の原画を調査研究するにあたって,大きくはその「絵画的側面」と「戦後史的側面」を念頭においている。ので,素材や技法が多岐にわたる。こういった表現上の自由度の高さが,原画の表現効果の源泉でもあるので,まず技法材料の検討が必要である。次いで文章とイメージの関係,あるいは個々の場面とその連続性に,「物語る絵画」の,絵画としての一般性と特殊性を探る。1956年に創刊された『こどものとも』の特徴のひとつは,名作のダイジェストでは-38-

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