鹿島美術研究 年報第18号
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⑫ ポスター美術館設立計画1898-1978年fiche, Paris, CNRS Editions, 1994.②Marie-Emmanuelle CHESSEL, La Publicite : Nais-sance d'une pr~fession 1900-1940, Paris, CNRS Editions, 1998. こうした状況の中で今回研究対象とする,合わせて約2000枚にのぽる二つの未調査の工芸図案群は,その量と質の両面から見ても,「温知図録」の研究を補うものであるとともに,「温知図録」以後の空白を埋めるためにも重要な位置にあり,そのデジタル画像による公開は関連する研究者にとって意義深いはずである。ー一現代フランス社会におけるポスター観の変遷ー一“研究者:パリ第10大学美術史学科博士課程吉田紀子今日,ポスターはパリの都市生活において大きな影響力を放っている。この媒体に与えられた独特の社会的地位に対する好奇心が,本研究の出発点である。フランスの広告ポスターは造形的特徴が専ら分析されてきたが,近年になって19世紀末の収集・批評活動や①,広告制作システムの専門・専門独立化の過程について研究が重ねられているように②,美術史のみならず社会史や経済史の考察対象としても注目を集めている。まさに,ポスター黎明期の愛好熱と現在の意欲的な趣味判断を結ぶ,一貰したポスター受容史研究が途についたばかりといえる。美術館設立計画案の浮沈を追うことを主眼とする本研究は,これまで見逃されてきた産業一装飾芸術の公認化という側面を補い,現代のフランスに築かれたポスター「芸術」観の由来を説き明かすことに貢献するであろう。①SegoleneLE MEN, Seurat & Cheret : Le Peintre, le cirque et l'af-本研究は準備中の博士論文の最終部を成す。博士論文の構成は以下の通りである。〈第一部〉ロジェ・マルクス:1880-1890年代のフランスにおける“アフィショマニ(ポスター狂)”と批評〈第二部〉ポスターは大衆教育の最前線になりうるか?:19-20世紀転換期の“社会芸術’'論議,〈第三部〉ポスター美術館設立計画1898-1978年:現代フランス社会におけるポスター観の変遷。本研究を含む博士論文の最終目的は,次の主張を確立することにある。“アフィショマニ”とは19世紀末に,愛好家の新奇なものに対する飽くなき興味から湧き起こった流行ではなく,優れて洗練された自国の産業ー装飾芸術品を擁護し,そこに大衆教育の効果を認めるという,フランス固有の歴史的必然性に刻印されだ朋眼の批評家たちが導いた現象であった。この“アフィショマ42

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