鹿島美術研究 年報第18号
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平昌二”の特殊性はポスター美術館の開設を通して復活し,現在なお先進諸国の中で際立つほどの,フランスの都市空間に展開するポスターの競演を促進したのであった。⑬ 19世紀後半のフランス絵画におけるキアロスクーロに関する研究―モネの作品を中心に一一研究者:新潟県立近代美術館主任学芸員印象派が出現した1870年代前後のフランス絵画がおかれていた状況は,自然光を描くことに急速に画家の関心が高まっていた時代である。ルネサンス以来の明暗法が駆逐され,絵画の平面性が強く意識されるようになったことがその大きな特徴と言える。自然を前にして風景を描くことはコローやバルビゾン派によって既に行われていたが,彼らが陰影を重視して明暗の対比を強調する傾向があったのにひきかえ,印象派の絵画では光と色彩そのものに重点が置かれるようになり,近代的な市民生活の成熟とも相侯って享楽的な親しみやすい内容が明るい色調で表現されることが主流となった。写真術が隆盛を迎え,従来のように精緻な明暗法による写実主義の必要が薄れたことも一因であろう。しかし,この一般に認められた事象を実際の印象派の作品に照らして分析してみると,陰影表現に関する画家の意識と通説との間に微妙な食い違いがあることに気付く。彼らは自然の影が色彩を帯びていることを発見して黒や褐色を画面から排除したが,決して影そのものを描くことをやめた訳ではなく,風景の三次元性は,より細やかな奥行きによって支えられている。明暗法は依然として命脈を保っていた,あるいは,刷新されたとみることができるのではないだろうか。この問題を解明する糸口として,印象派のモネの作品に焦点を当て,彼の陰影表現と空間性の変化を年代を追ってたどる。明暗法を軸にモネの作品を探求することによって,彼の視覚だけでなく,精神の在り方の実像に迫ることができると思われる。そして,従来十分な研究が行われてこなかった19世紀後半の明暗法の展開についても考察を試みたい。43 -

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