鹿島美術研究 年報第18号
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⑭紅摺絵研究ー一紅摺絵から錦絵に至る技法の変遷について—研究者:平木浮抵絵美術館学芸員松村真佐子本研究の主たる目的は,初期的な板彩色の「紅摺絵」が,本格的な多色摺の「錦絵」に至るために,どのような過程を経て辿り着き得たかを検討することにある。従来,錦絵は“明和2年の絵暦交換会の流行の後,それらの版木が版元に下され「吾妻錦絵」が発売され,錦絵が成った。”と説明され,理解もされている。しかし,それらの版木を下げ渡された版元の側にも,技術を再現するための準備がなされていなければ,これほどに順調な連繋は生まれてなかった可能性が考えられる。これを仮説として,紅摺絵の変遷の具体的な流れを検証する。また,宝暦(1751-1764)末期に制作されたとされる「水絵」は,その主題を,和歌・故事・物語などから取り,彩色は中間色を使用する等,それまでの紅摺絵とは一線を画する。「水絵」には版元印が捺印されるものが多く,商業用に作成された可能性が高く,版元の摺刷の新たな試みとも解する事ができる。「水絵」に使用される彩色と紅摺絵末期の彩色を比較し,当時の摺刷技術が,どこまで進んでいたかを検証する。紅摺絵期の作品の変遷を系統だてて分類することは,錦絵の創始期をより深く知るためにも重要な課題である。延享元年(1744)が紅摺絵作品の上限とされていたが,実際には,それ以前の作品の存在が確認されている。紅摺絵の上限がどのあたりにあるのかを検討し,それらの特徴を明確にする。また,より多くの作品調査による具体的な分類を提示することは,今後の初期浮世絵研究の基盤となる。⑮ コラージュの空間ーー不連続なもののなかに見出される統一性の問題_研究者:東京大学大学院人文社会系研究科博士課程河本真理201せ紀美術におけるコラージュの展開については,海外ではすでに数多くの文献が出版されているのに対し,国内で本格的で体系的な研究が未だないのは驚きですらある。しかし,海外の文献に関しても,これまでコラージュの歴史を概観しようとする際,芸術運動あるいは芸術家を年代順に羅列し,ー通りコラージュを制作した主要な芸術家を網羅するというのが通例であった。そもそもコラージュに関わった芸術家の-44 -

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