鹿島美術研究 年報第18号
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数があまりに膨大であるが故に「百科辞典」のように全てを網羅しょうとすれば個々の事例の記述は概説的にとどまらざるを得ず,その狭間に埋もれて,全体を見通す体系的な視点が結局漠然としたものになりかねない。そこで,本研究では,従来の先行研究のようにコラージュの歴史を通時的に記述するという方法よりむしろ,「共時的」に四つのテーマ別に論じるという方法論をとった。(むろん,この共時的な視点は通時的な視点と適宜組み合わされなければならない。)よって本研究は,いわゆるコラージュの通史ではなく,ここで扱うことになった芸術家・作品はテーマ毎に最も重要と思われる対象に絞られている。本研究の意義は,「共時的」方法によってコラージュの機能そのものを分析し,それを通じてコラージュの概念を明確に浮かび上がらせることにある。本研究が扱う主要な概念の中で,コラージュにおける切断(分割)の概念,すなわち「分析的コラージュ」の概念は,その先鋭な(自己)破壊性にもかかわらず,最近に至るまであまり知られていなかったといえる。それゆえ,コラージュの概念を拡張するものとして,新に本研究の中で導入された「分析的コラージュ」のカテゴリーは,特に詳細な検討に値するのである。また,本研究のような「共時的」方法では,作品に関連する言説,概念の批判的分析が重要となる。この際,必要かつ適切と認められれば,哲学,言語学,文学,精神分析学等の理論も援用していく。本研究は美術史学に固有の具体的な作品分析と合わせて,このような学際的な視点からコラージュを考察するものである。⑯ 近世染織史に於ける歌舞伎衣裳の分析と位置付け研究者:福島県立美術館主任学芸員佐治ゆかり従来,歌舞伎は,歴史,文学,民俗,建築,芸能等の多方面から調査研究がなされてきた。戦前までは,戯曲を主体とする文学史としての研究が主であったが,戦後は文学とは異なる構造と機能をもつ芸能,演劇として総合的に捉え,分析しようとする視点が導入され,歌舞伎研究は飛躍的に展開した。しかしながら,これらの研究に欠けていたのは,実際の歌舞伎を成り立たせている〈もの〉そのものを対象とする視点である。しかも最も〈もの〉を取り扱うはずの美術史においては,役者絵等の分野を除いて,歌舞伎自体が研究対象となることはほとん-45 -

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