多くの重要な新史料の所在が確認された。だが,氏の専門外の陶磁器に関する発表はごく少数で,発見されだ情報の大半は発表の予定がないという。「東インド会社文書」では,肥前磁器及び西洋陶磁器貿易に関する記述が頻繁に同一に掲載されている。従って,この種の文書研究は,これら二領域の作品研究を同時に発展させる重要な基礎研究である。しかし,同研究は主にオランダ文献史学者により行われ,国内で着手したのは近世日蘭日唐貿易史専門の山脇氏のみであるので,陶磁専門用語の再検討も必要である。文書の内容から,肥前磁器と西洋磁器を並行して研究できることに注目し,本調査では専門を異にする2人の研究者が協力して史料の分析を試みる。東西双方の知識を要することも過去の同文書研究の難題のひとつであった。そこで,本研究で二種の知識が同一課題に取り組むことも,価値ある試みである。本研究の最終的な構想は,本調査で所在確認された文書について,その意味内容を実作品との関連の中で考察し,日蘭の陶磁貿易の史実を再検証することである。本調査でまとめた史実は,肥前磁器および西洋陶磁器の実作品を歴史的に考証するための論拠として作品研究に直接反映出来るため,その意義は多大である。⑱ 17世紀セビーリャにおける彫刻絵画比較論と「対抗・彩色彫刻」としてのカラヴァッジョ風明暗法の流行研究者:東京大学大学院人文社会系研究科博士課程楠根フランシスコ・デ・スルバランの絵画作品と,当時のセビーリャにおける彩色彫刻の関連はこれまでたびたび指摘されてきている。従来の見方では,スルバランがマルティネス・モンタニェースの彫刻作品などからその静溢な表現や深い精神性を学んだと言われている。しかし,スルバランの絵画表現は,彩色彫刻を単に雰囲気や精神性の上で参考にしたにとどまらない。彼の技法は,常に彩色彫刻の迫真的表現とその効果を意識したものだと言っても過言ではない。そして,同じことは,彼と同時期にカラヴァッジョ風明暗法を学んだベラスケスやアロンソ・カーノについてもいえるのである。カラヴァッジョ風明暗法から遠ざかった後のベラスケスとカーノの絵画様式の変化にも,彩色彫刻の存在が重要な鍵となっていると考えられる。今回の研究を通じて,彩色彫刻への対抗という,これらの画家たちが持つ共通項の存在を証明したい。このことによって,リベーラも含むスペインでのカラヴァッジョ風明暗様式の独自性-47-
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