⑳ 大戦間期のハンガリーおよびチェコにおけるアヴァンギャルド芸術運動に関する研究に豊にするものであると考える。また文化史的にみても,意義深い成果を挙げることができるだろうと考える。さらに,もし作品に対外交流の影響を想定できるならば,問題は,日本国内のみで考えることのできない大きなものとなるだろう。研究者:北九州大学大学院人間文化研究科助教授井口壽乃本研究はハンガリーとチェコのアヴァンギャルド芸術運動を近代美術史に位置づけるものである。特に大戦間期のヨーロッパのアヴァンギャルド芸術は,昭和初期の日本の美術の形成と発展に深い関わりをもち,その受容の歴史は,近年わが国の美術史研究においても注目されるテーマとなっている。しかし,シュルレアリスム,ダダイズム,デ・ステイル,ロシア構成主義などの全貌が明らかにされる一方で,これらと重要な関係をもち,国際的な芸術運動の一翼を担ってきたハンガリーとチェコのアヴァンギャルド芸術については従来の研究において看過されてきた。その主な要因は対象となる地域と言語からなる壁が大きく,日本の美術史研究が西欧やアメリカの研究を経由してのものに陥りやすい傾向にある。そうした現状は,しばしば誤った歴史認識や事実関係の不透明さを招きかねないのである。また,自国においては,1989年の体制転換以降新たな資料が発掘,発見され,それらを客観的に再検討しようとする動きがみられる。以上の現状を踏まえ,本研究は現地での一次資料の調査と史実に基づく検証によって,中欧アヴァンギャルド芸術の成立と展開を明らかにすることを目的とする。本調査の結果より,大戦間期の国家的な文化創造のシステムの中で,芸術家がどう機能したか,また国際的な芸術家のネットワークの形成と拡大がどのように作品に反映されたか,という問題を解くことができると考える。それは同時に,これまで語られてきた近代美術史の再検討につながるのであり,これが本研究の意義である。さらに,この研究成果を美術史学会等において報告し,かりたい。のフィードバックをは-49-
元のページ ../index.html#75