⑳ 友泉亭杉戸絵の復元研究研究者:福岡市博物館主任学芸主事中山喜一朗この調査研究が対象とする画家松永冠山は,これまで出身地である福岡県前原市において回顧展が開催され,また福岡市美術館などが主要郷土作家として作品を収集してきた。しかしながら「友泉亭」杉戸絵は,その重要性が認識されながら失われたものとされていた。従って,この調査研究の成果は,冠山の再評価を促し,画業全体の再検討に一石を投じるものと確信する。冠山の画業は前半生においては主として清新な風景画で世に認められながら,後半生では伝統を生かした花鳥画制作に比重が傾いていく。これは,「友泉亭」杉戸絵制作が冠山にとって大きな転機であったことを意味する。また,当時はまだ制作活動の場が京都にあり,近世の障壁画研究によって「友泉亭」の表現が方向付けられたことも確かである。こうした点からも冠山の画業全体の把握と理解は,「友泉亭」杉戸絵の研究なしには果たし得ないと考えている。また,復元に際しコンピューターの立体画像を利用することは,障壁画研究のひとつの手法として有効であろう。現在は,高度な専門的知識がなくても3Dデジタル画像や立体アニメーションの制作が個人レベルでできる環境が整っている。比較的安価で市販されている3DソフトとCADソフトを用いれば,「友泉亭」などの比較的規模の小さい建築物の再現は,個人レベルの設備で対応でき,業者委託による費用の点で困難だった作業も今後は個人研究の視野に入れるべきと考える。この調査研究では,こうしたコンピューターの活用方法も具体的にレポートしてみたい。さらに立体画像は,博物館,美術館等の新しい展示手法としても大いに活用できると思われ,研究者だけでなく学芸員なども習得しておくべき知識ならびに技術ではないだろうか。⑫ 探幽縮図_17世紀後半における古画の市場と鑑定,絵画史の誕生_研究者:プリンストン大学美術考古学部博士課程本研究の目的は主として17世紀後半における日本の古画の位置付けを探ることにある。日本において宋元画の市場は16世紀に確立したが,日本古画の市場はこれに遅れ,17世紀後半に本格的に成立したと言える。17世紀前半においては,「古画」(当時の中世水墨画と宋元画を指す概念)の受容は幕府上層部や有力大名に限られていたが,17ユキオ・リピット-50-
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