⑳ 初期シトー派美術の写本図像—ァメリカの資料調査を中心に__ー1998年にシトー修道会が創立900年祭を迎えたのを機に,美術,歴史,その他さまざure et le Scriptorium de Cfteaux (Citeaux, 1989)において,シトー派の最初の写本制作研究者:お茶の水女子大学大学院博士課程満期退学伊藤里麻子まな分野において,シトー派関連の,出版,コンファランス,展覧会等が実行された。その際,各地の建築,所蔵(旧蔵)品,ドキュメント等の再調査が行われた。これを機に,シトー派の研究は,進展しつつある。歴史や思想史の研究においても,個別研究のほか,修道生活の実態,心性・ジェンダーなど社会史的な解釈,など,伝統的な方法と新たな視点を組み合わせた,様々な方法による解明の試みがなされつつある。シトー派の彩飾写本については,1989年に,Yolanta Zaluska女史の大著L'enlumin-と蔵書について,初めて系統だった研究が著された。しかし,これ以降,いくつかの論文を除いてまとまった成果は刊行されておらず,ほかの修道院スクリプトリウムの写本制作など,今後の課題は多い。さらに,シトー派の写本の様式を考察する上で,同時代の他の作品との比較が必要である。西欧中世の美術研究は,(シトー派に限らず,)従来の研究に加え,情報のデジタル化が,ヨーロッパ,アメリカをはじめ各地で始まり,インターネットなどを用いだ情報提供,種々のデータベース作成など,様々な計画が,遂行されつつある。中世シトー派写本についても,フランスにおける,デイジョン図書館所蔵のシトー修道院旧蔵本,トロワ図書館のクレルヴォ修道院旧蔵本のともに画像のCD-ROM化計画,シトー派以外では,中世彫刻の素材の石灰岩についてアメリカで進行中の大掛かりなデータベースなどが例として挙げられる。デジタル情報は,今までは,物理的に困難が多かった中世美術研究,写本研究を容易にしつつある。こうしたニューメデイアを取り入れた研究の方向性において,アメリカの研究機関は重要な役割を果たしつつある。一方,写本等の第一次資料も,シトー派に限らず,重要な作品がアメリカ各地に所蔵されている。フランスの図書館で実物の調査を進める一方,アメリカの研究機関,図書館で,作--54 -
元のページ ../index.html#80