鹿島美術研究 年報第18号
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品,文献双方の調査を行うことで,写本を中心としたシトー派美術の再考を試みたい。⑰ 六道絵研究—聖衆来迎寺所蔵「六道絵」に関する仏教思想史的アプローチ—研究者:早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程井上聡本研究は,聖衆来迎寺所蔵「六道絵」15幅について,絵画様式論的位置付けと,制作に関する仏教思想的背景の解明を試みるものである。申請者は,近年の六道絵研究が,図像の典拠の特定に主眼を置いた,テクスト論的考察に偏りすぎているとの反省を踏まえ,作品調査と文献史料の検討という,美術史学研究においては基礎的な作業に改めて立ち返る。聖衆来迎寺本について,様式論的考察と思想史的考察を併せて行うことで,ややもすると乖離しがちな両者の融合を図り,より具体的な史実としての作品理解を試みたい。研究対象として,聖衆来迎寺所蔵「六道絵」15幅を中心に据えたが,これは,この作品が鎌倉時代における六道絵の新展開を如実に示し,後の六道絵にも多大な影評を看取できるものでありながら,これまでの研究においては,描かれた個々のモチーフの典拠や,各幅の個別の意味を考察するにとどまり,15幅全体についての〈いつ・どこで・誰が・何のために制作したのか〉という基礎的な研究が十分には行われてきていないと考えるからである。申請者は,聖衆来迎寺本の制作時期や意図,また制作当初の使用方法に関する考察に重きを置き,作品の「機能」,そして,それを支えていた「人」という,これまでの聖衆来迎寺本研究において保留されてきた問題について考察を試みる。以上のごとき方法論は,美術史学の基礎的研究方法であり,決して目新しいものではない。しかし,近年の美術史学においては,このようなオーソドックスな研究が等閑視されるきらいがあり,本研究の研究課題である六道絵のように,基礎データの積み重ねが未だ不十分であるままに放置されている例も少なくない。本研究では,敢えて,基礎研究に重きを置くことで,以後の研究の布石となることを目論む点に,特色があると考える。また,本研究で予定している画像データベースの作成は,現在方法論が模索されている分野である。本研究において,一つの雛形を提示することができれば,六道絵に限らず,広く今後の美術史研究に益するものとなろう。_ 55

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