鹿島美術研究 年報第18号
84/112

にとって残る未調査の所蔵先は旅順博物館のみとなったが,その後の国内の2館,特に龍谷大学図書館における研究者への便宜環境の大幅な向上と,探検隊資料とは別個の中国・新彊の現地における大量の資料の公表,それに対する大谷探検隊収集墓葬美術資料の研究のゆるやかな進展は,個別研究や比較研究において必ずしもパラレルではない状況を生みだし,韓国・ソウルと中国・旅順の墓葬美術資料が十分に検討されない状態をつくった。さらに,美術資料に基づく研究がある程度の資料群の存在を前提とするのは当然ながら,その研究の公表と比較資料の公表における上記のような競合の中で,大谷探検隊収集資料に焦点を当てる研究者が比較的少数だったこと,断片接合や復元という作業が仏典や古文書の研究に比ベパイオニア世代から伝授・継承されにくかったこと,等々がある。これらの問題は,上記のような資料の分散の問題と相侯って,特定の資料群を形成しながらもリスト整理が不十分だったり,原型復元が進展しない状況を残した。一方で墓葬出土の古文書の研究は大谷探検隊収集文書と残存し,中国隊により発見された文書の接合にまで進み,文書認識と墓葬認識がパラレルに近づいているという状況があるので,その欠を補うためには,是非とも墓葬美術資料の特定群に限ってでもリスト整理と構図(原形)の復元の作業を試み,時代や特徴の把握への展望が必要と考えられる。申請者は,以上のような資料と研究状況を背景に,研究課題を「大谷探検隊収集墓葬美術資料のリスト整理と構図・原形の復元」とし,効果的に成果を得るため対象の重点を特定資料群,すなわち伏義女娼図,彩画紙片及び木桶に置き,調査研究先を国内は東京国立博物館と龍谷大学図書館,国外を旅順博物館,韓国国立博物館として事項にも述べた年来の調査研究の方向を実現したいという構想をもっている。韓国は14年前に赴き今も館員と連絡しており,深窓のため閉館中でも最大の博物館として業務は継続していてある程度の情報把握は可能である。旅順は閑散とした地方博物館で今は注目されにくい状況だが,特にこの助成を得て所蔵品の価値を確認し,併せこの分野の美術資料の位置付けに寄与できるものと確信している。⑳ 緑釉水波文填の美術考古学的研究研究者:奈良国立博物館研究員高橋照彦緑釉水波文博というと,あまりにも瑣末なテーマのようではあるが,先述の通り,58 -

元のページ  ../index.html#84

このブックを見る