鹿島美術研究 年報第18号
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らは研究対象とされることがこれまでほとんどなかった。近時,國學院大學から『神社祭礼図の研究』という本が出版された。巻末には神社祭礼図の所蔵一覧表があり,とても便利なのだが,京博本をはじめ,永青文庫本等が記載されていない。いかに祭礼図の研究が絵画史で遅れているか,また絵画史と祭礼史がリンクしていないかがわかる。室町末頃までは,各山鉾町内では出し物は,年ごとに話し合いで決定し,趣向を凝らしていた。常に変化し,新らたな趣向で「人をあっと驚かす」「神をあっと驚かす」のがその狙いであった。しかし,山鉾は次第に固定化への道を辿る。豊臣秀吉が政権を樹立すると寄町制度を作った。これにより,山鉾の趣向は完全な固定化へと向かった。徳川政権になると,さらに追い討ちとなる禁制が次々と出される。このような流れの中で,祇園会自体も変質していく。それに伴い,祇園祭礼図にも影響を与え,「祭礼」を描いていたものが「祭列」のみを描くようになる。山鉾図鑑とでも言うべき即時的,記録的描写でしかないものになっていく。それと並行して,画面全体に渡って典雅な雰囲気を持たせようとする傾向も生まれる。この傾向は,江戸時代になると風俗画から手を引くと言われてきた狩野派に遣品が多いことは面白い。このような祇園祭礼図の変化を作品を,詳細に調査することにより,明らかにしていく事が本研究の最大の目的である。⑰ ドイツ・ロマン主義美術における森とゴシック建築研究者:埼玉大学教養学部非常勤講師松下ゆうこゴシックは,アルプス以北に端を発するほとんど唯一の様式であるとされる。ロマネスクにしろ,ルネサンス,マニエリスム,バロックにしろ,ゴシック以外の主な様式はみな,地中海沿岸地域に誕生している。そのゴシック様式が再び大きな脚光を浴びたのは,18懺紀から19憔紀にかけてのことである。長い間アルプスの北側の国々には,文化の伝統に関しては地中海世界に大きく遅れているという意識があった。ゴシックのリヴァイヴァルは,この地域のローカルな文化の見直しでもあった。こうした背景があるからこそ,それは建築の分野にとどまらず,広範な文化現象・社会現象となりえたのである。このゴシック・リヴァイヴァルの時代は,まさに近代市民社会の基本的な枠組みが形成された時期に相当する。いちはやく近代社会を確立し,20世紀-63

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