鹿島美術研究 年報第18号
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末にいたるまで世界をリードした西欧の近代文化の再考は,今日ぜひとも必要な課題であろう。ところが,美術史とくに絵画をはじめとする視覚イメージの分野では,個別問題を検討した研究はあるものの,この現象の全体像を視野にいれているものはまだ少ない。こうした問題意識を前提として,申請者はこれまで行ってきた研究の延長として19世紀初めのドイツ・ロマン主義の美術におけるゴシック・リヴァイヴァルに焦点を絞り考察を行いたいと考えている。ドイツ・ロマン主義の美術では,ゴシック建築のモチーフがしばしば使われている。特に目立つのは,森とゴシック建築のアナロジーである。そこには,独特の自然観の反映と,ドイツ的造形感覚へのこだわりがあると考えられる。この二つのモチーフを具体的作例に則して検討していけば,西欧近代の後発先進国としてのドイツにおけるゴシック・リヴァイヴァルの特殊な様相の解明に献することができるだろう。また,西洋の美術においては風景や動植物などの自然物よりも,人物像に重きが置かれているとされ,その傾向の背後には人為と自然を二項対立的に捉える考え方があったとも言われる。しかし実際には,必ずしもそうとばかりは言えない。西洋文化圏の中にも多種多様な地域と文化がある。ドイツ・ロマン主義美術における森とゴシックのアナロジーの分析は,この問題についても寄与できると考えている。研究者:九州産業大学大学院芸術研究科博士課程本研究は,台湾近代美術史を明かにするために大いに役に立つと確信する。また植民地50年間の歴史の究明は,日本側から見れば日本近代史の隙間を埋めるために欠かせないものである。一方,台湾側にとっては,植民地時代の辛酸苦渋の歴史が解明されることに意味がある。また,歴史の解明こそが今日の混乱した台湾社会を秩序の正道に引き戻す力となる。なぜならば,台湾は1987年に戒厳令が解除されて以来,全域あたかも過渡期特有の混乱にはまり込んでしまったからである。人々は台湾人としての自分自身のアイデンテイティを探し出そうとしたが,糸口はなかなかつかめない。時には,感情に暴走し-64 呉永オ⑱ 台湾近代美術史(1895■1945)

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