鹿島美術研究 年報第18号
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⑳ 《サン・パオロ・フォーリ・レ・ムーラの聖書》の「王の書」図像サイクルの研究研究者:東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程加藤ひろみ〈サン・パオロの聖書》は,カロリング朝時代の現存する彩色聖書本中,最多の24枚の巻頭挿絵を有している。本写本の挿絵プログラムの特徴は,先行するトゥール派聖書本の挿絵に加え,さらにほぼ同数の旧約聖書挿絵を採用した点にある。従来,これらトゥール派以外に由来する挿絵の手本として,「八大書」や「王の書」などを含む4憔紀からイコノクラスムまでの間にコンスタンチノープルで制作された写本が想定されてきた。本研究により東方起源の原形(プロトタイプ)から《サン・パオロの聖書》へと至る図像の系譜を明かにすることにより,本写本の直接の手本についてより具体的な検討が可能となる。さらに,本写本においては,カール禿頭王の肖像と,現世の王の範とされたダビデ王やソロモン王が意図的に対比されているが,本研究により,ダビデ王図像およびソロモン王図像の起源が明かとなれば,同時に同図像の独自性が浮き彫りにされ,挿絵プログラムを解釈する上で重要な手がかりが与えられることになる。さらに,聖書写本の歴史を鑑みれば,カロリング朝時代とロマネスク時代は彩飾聖書本が数多く制作された時期である。本研究により《サン・パオロの聖書》とロマネスクの聖書本との図像サイクル上の関連が明確となれば,聖書本の挿絵プログラムの発展史を考える上で,意義深い。本研究は,《サン・パオロの聖書》の「王の書」図像という個別テーマを扱うものであるが,これは,本写本の挿絵プログラム全体の図像起源や構成を考察する上で重要であり,さらに,カロリング朝からロマネスクヘと至る「王の書」図像の系譜を具体的かつ体系的に捉えようとするため,延いては,西方懺界に於ける旧約聖書説話図像全体の受容と発展の解明にも資するであろう。⑩ 初期ネーデルラント絵画に描かれた「穴」について―《ブラデリン祭壇画》に見る画家と寄進者の意図_研究者:早稲田大学文学部助手木川弘従来,初期ネーデルラント絵画に表現された「穴」は,位括的な研究対象となって66 -

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