⑬ 17 • 18世紀中国・日本の輸出磁器における柿右衛門様式の位置てきた。その一方で,景山春樹氏をはじめとして,これを神道教義を根幹に据えて,改めて神道美術としての文化的,歴史的意義についての捉え直しの必要性が指摘されてきた。しかしながら,未だにこの神道美術として視点を変えての調査,研究は決して十分になされてきたと体が,すでに仏教美術的な指向に基づくものであり,そのような過程の中で看過されてきた資料も少なくはないはずである。今回の調査研究では,そうした神道思想,神道美術としての視点からみて,本来重要な意味を有する資料に改めて焦点を当て,再意味付けを行っていくことを一つの目的とするものである。また,それぞれの資料について与えられた重要度の点からあまり良好な保存状態とはいい難いものについては,まず,今回の調査の中で,同時に個々の状況についても詳細な観察を行い,それらの修復の必要性や今後の保存処置についても検討をしていくことも念頭に含めたい。このことは,資料の修復処置やそのための詳細な観察の過程において,今後の研究の方向についてもより有効な指針を見出していくことを可能にするものと考える。研究者:広島県立美術館学芸員福田浩柿右衛門様式については,既に数多くの考古学的・美術工芸史的研究が行われているが,中国や日本も含めた輸出磁器の通史上では,まだ十分に語られているとは言えないのではないだろうか。柿右衛門様式を美術工芸の面からだけ捉えるのではなく,世界史の流れを併せて考えることは不可欠である。従来,歴史家は文献中心,美術史家は工芸として美的あるいは技術的側面を扱う傾向があったが,美術工芸史と歴史の双方を総合的に視野に入れた研究こそ,待たれてきたものと思う。幸いにも,申請者の所属する美術館は,柿右衛門様式の優品を所蔵している。それらは3点とも江戸時代の有田に生まれ,出島からヨーロッパヘ渡った「生き証人」である。これらの作品を上記の大きなテーマを考え,まとめていくための糸口としたい。そして,それは柿右衛門様式の本質,ルーツをたどることでもあり,これら作品に対する新たな考察になると考える。ヽ難い。そもそも,原資料についての調査対象の選定自-69
元のページ ../index.html#95