⑭ 国家・都市・現代美術ー一国際美術展パリ・ビエンナーレを手がかりに一(FRAC)に関するP.ユルファリノとC.ヴィルカス,並びに現代演劇に関する佐藤郁哉研究者:東京大学大学院総合文化研究科博士課程フランスを中心に研究が進められている芸術社会学の分野において,「現代美術」は多くの考察の対象となってきた。それは,作家の逸脱行為,観衆による拒絶反応,美術制度による回収作業の繰り返しによる三者間の相互行為=「ゲーム」である,とN.ユニックは言う。また,R.ムーランは,その美的価値構築の場が,次第に市場から術館などの公的組織が市場と接合する場へと移行していると指摘する。本研究は,上のような力学とメカニズムとを特徴とするようになっている。この現代美術という領域を,政治経済的な力学との関係から検討するものである。とりわけ,グローバリゼーションに関する国際関係論における議論や,P.オリー,P.ュルファリノ,V.デュポワらによる近年の文化政策研究を参照しつつ,パリ・ビエンナーレの事例研究を通して,現代美術界の国際的な市場・制度と国家・都市などから構成されるフランスの公的領域との関係の構造的な変化を時系列的かつ分析的に記述することを目指す。従来,実践的ないし経営学的な観点から進められてきた美術館学において,国際関係論や社会学の視角と方法から現代美術の芸術生産・媒介と受容の今日的な様態を考察する意義は大きいと考えられる。調査は,パリ・ビエンナーレの(1)制度面に関する史料収集(文化省,外務省,パリ市の行政史料,組織団体理事会の議事録,関係者による書簡などの公文書),(2)美的側面に関する資料収集(展覧会図録,新聞雑誌関連記事),(3)フィールドワークの手法による関係者へのアンケート・聞き取り調査〔調査方法に関しては,現代美術地方基金の研究が参考になる〕からなる。研究対象については,組織団体が解散して時間が経過しているために観察すべき「フィールド」そのものは存在しないものの,逆に史料へのアクセスが容易であるという利点が指摘できる。また,インタビューを行うことで,公文書中においては触れられない点や行為者相互の関係性が明かになり,パリ・ビエンナーレという国際美術制作のフィールドをかなりの程度再構成することが可能になると考えられる。-70 岸清香
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