⑮ 高山樗牛と日本近代美術研究者:郡山市立美術館主任学芸員鈴木誠一本研究の目的は,日本近代美術史における高山樗牛の位置を明確にするために総合的な調査を行うことにある。また,申請者の所属する郡山市立美術館のような地方の公立美術館にとって,その地域に関係のある事象を研究し,その成果を公表することは重要な任務である。樗牛は山形県の生まれではあるが,その少年期を福島県に過ごし,その後身の高校が現在郡山市にある旧制中学校を卒業しているために,広く地域住民に知られた存在である。しかしながら,その多くは小説『滝口入道』の著者,すなわち文学者としてのみ認識されているのが現状である。したがって,本研究により,樗牛の美術評論家としての面を地域に広めることが出来るとも考えている。将来的には本研究の成果に基づいた展覧会の企画,開催を予定している。⑯ 大正期から昭和初期の関西における創作版画の展開研究者:神戸市立博物館学芸員金井紀関西は有数の美術館が集まる地域であり,これまでも近代美術史では,洋画,日本画,前衛絵画について,多くの調査研究が積み重ねられ,作品が紹介されてきた。もちろん版画もその例外ではないが,創作版画に手を染めた大正末期から昭和初期の版画家には,独学によるアマチュアに近い人々が多く,マイノリティーの作品として記録が乏しいのが現状である。彼らは大作家ではないが,時代の気分を体現した表現者であった。すでに大正時代より70年以上の時間が経過し,直接の子孫をたどることは困難になる一方である。今ここで関西の創作版画の作家を調査し,何らかの記録を残しておくことは,意義のあることだと思われる。-71 -
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