点を1点ずつ調査し,写真撮影を行う。その後,国立近代美術館,個人コレクター(ウランバートル,仙台に存在)の収集品を調査していきたい。(いずれも,先方には協力の同意を得ている。)ここで得たデータを基にデータベースを作成する。また同時に作家の調査も行いたい。B.チョグソムなど現存する重要作家には直接会ってインタビューを行い,当時の状況等を聞く。文字資料が極端に少ないため,こうしたインタビューが重要と思われる。ソ連への最初の留学生世代は,すでに老齢を迎えているため,早く実現させたい。(現に,油彩画の第一人者であり,仏教美術,モンゴル絵にも造詣が深かった1924年生まれのN.ツルテム氏は今年亡くなった。)これらの調査結果は,モンゴル美術の作品を保存,記録するための第1歩となり,モンゴルにとっても大変有益なものとなる。そして今後の幅広い研究のための布石となることが期待できる。今後,モンゴル近代美術の評価や注目は高まると思われるが,経済状態の悪さから,それはかえって,作品が散逸してしまう危険性を卒む。一刻も早い調査を行いたい。⑱ マックス・エルンストにおける「地震tremblement de terre」の主題について研究者:大阪大学大学院文学研究科博士課程國吉貴奈これまでのエルンスト研究において,一般向け出版物から作品のモティーフや主題が多く借用されていることが明らかにされてきた。なかでも「地震」の主題は自然科学雑誌『ラ・ナチュール』にその源泉が認められながらも,未だ突っ込んで論じられたことがない。『ラ・ナチュール』を見てみれば,地霞を含めた自然現象の主題ー火山噴火,光の現象,大気放電ーがエルンストの関心を引いていたことがわかる。しかし「地震」主題は他の自然現象の主題とは違い,それ自体目に見えるモティーフとして作品に借用されていない。これはエルンストが出版物の挿し絵以外の領域から,いかに作品の主題を選び取っているかという,これまで考えられていなかった問題とも関わっている。これまでの研究では,作品のモティーフが出版物の挿し絵からいかに借用されているかという,イメージに重きを置いた作品研究が行われてきた。本研究ではイメージの源泉を探るだけでなく,シュルレアリスムのテキストやエルンスト自身のテキスト,そして自然科学のテキストなどからも主題の解明に当たることを目的としている。イ-74
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