鹿島美術研究 年報第19号
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月21日に開催された鹿島美術財団理事会において承認された。財団賞は,西洋美術究』掲載の対象となる研究報告に目を通した上で,当日の選考委員会に当たった。選考委員の間で,慎重な審議を重ね,一次,二次,三次と授賞候補者の絞り込みをした。その結果,第8回鹿島美術財団賞授賞者と,それに次ぐ優秀者を内定し,本年3分野から日本学術振興会特別研究員尾関幸氏,研究題目は「エルトマン・フンメルの芸術における遠近法の役割について」である。そして,日本・東洋美術分野から彰考館徳川博物館学芸員近藤壮氏,研究題目は「江戸時代中期の公家文化における画家の研究ー近衛家煕と『中山花木図』をめぐって一」である。では,最初に,小佐野重利委員による尾関幸氏の選考理由を読み上げる。尾関幸「エルトマン・フンメルの芸術における遠近法の役割について」フンメルは18世紀末にローマに遊学し,1809年より40年以上に及びベルリン王立美術アカデミーの「遠近法と光学」の教授職をつとめる傍ら,ベルリン画壇で活躍する。尾関幸氏は,ローマ時代およびベルリン時代のフンメル作品に見られる,技巧の限りを尽くした線遠近法の使用と,太陽光や夜の月光および人工光が作り出す「投影された影」を駆使した独特の陰影表現とを詳細に検討して,絵画の空間構成が与える知的遊戯性と併せ,人物像の醸し出す象徴的あるいは抽象的な雰囲気を的確に説明してみせる。一点透視図法で示された単一的絵画空間を重層化する手段として画中で鏡がしばしば使われる。戦時中に消失した作品《トリビュナル》のための習作に至っては,八角形プランの内部空間に配された6枚の壁面鏡が映し出す鏡像を通じて,複数の遠近法空間のせめぎあう数学的遊戯の絵画を創り出す。レオナルドが説く,多角形プランの壁面鏡の映し出す複数鏡像のことを踏まえた制作かとも思える。これらの特徴は,画家を形容するのに用いられる無縁の,画家生来の資質に由来すると論じ,絵画が建築家シンケルなどの主導する建築事業と密接に関わりながら発展したベルリンの地で,その資質が本領を発揮した様子を,作品と原資料に基づき浮き彫りにした。ベルリン画壇に関する深い学識に裏打ちされた堅実な立論であり,フンメルの今「写実主義」とはまった<-13 _

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