鹿島美術研究 年報第19号
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研究目的の概要① 浮彫の作風分析に基づくボロブドゥール建造過程の研究研究者:大阪大学大学院文学研究科博士後期課程丹羽千代子ボロブドゥールは19世紀の再発見以来,様々な研究がなされてきたが,それらはボロブドゥールは何を意味しているのか,何のために造られたのかといったボロブドゥールが象徴するものを推測する研究が主流であった。建築分野からの建造過程の研究の他に,美術史分野からは仏像の尊名の比定,説話図浮彫の主題の比定に関する研究が盛んに行われてきた。しかし浮彫そのものの作風分析に主眼を置いた研究はほとんどなく,申請者の行っている調査研究はその独自性に意義があると思われる。また,浮彫の作風分析によってボロブドゥールの建造過程を考えるという,美術史分野と建築分野とを包括した研究を行うことで,分野の枠を超えた考え方や,研究者間の協力が求められつつある東南アジア研究の重要な先駆けになると思われる。② 岡本秋暉の画業と作品に関する基礎的研究研究者:平塚市美術館学芸員郡司亜也子本研究は第一に現段階で見出しうる限りの岡本秋暉作品を一覧すること,第二に秋暉の画業の分析と検討をおこなうことを目的とする。このことにより,日本文人画の展開の諸相,ひいては江戸後期の画壇状況の一材料を提出することができると思われる。近世日本において,中国大陸からの画論や画譜,作品の輸入によって創始された文人画は,世代を経てその理念や様式が伝播するに従い,多様な様相を示すようになった。近年の文人画研究では,これまで詳細に紹介されることの少なかった画家に焦点をあてての再評価や,文人画という言葉に包摂される多様な絵画動向についての分析の試みが行われている。岡本秋暉は渡辺華山に師事したことから大きくは日本文人画の派生形の一例として捉えられてきており,そうした意味では,やはり渡辺華山に私淑し足利藩の絵師をつとめた田崎草雲(1815■1898)や,田能村竹田,浦上春琴に学んだ帆足杏雨(1810■-31 -

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