鹿島美術研究 年報第19号
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④ 20世紀ドイツ美術にみる〈記憶〉の表象研究者:東京大学大学院総合文化研究科博士後期課程城西国際大学非常勤講師福島麻由美本研究は,ナチズムとホロコーストにまつわる記憶をテーマとした20世紀ドイツ美術,とくに70年代以降の現代アートを調査することをねらいとしている。この成果は美術という専門領域に限って言えば,造形芸術が過去の記憶をどう表象するかという表現美学,あるいはまた,それがどう受け手に伝わるかという受容美学の,きわめて今日的な研究課題に貢献するものである。さらに,より広い文化研究の視野に立つならば,美術というハイ・アートが,一般社会の人びとによって共有される集団的な記憶の形成にどのように関与し,批評的に介入するかという大きな問題を設定し,部分的ながらそれに答えようとするものでもある。従来,ドイツ文化研究の分野においては,文学や思想史の観点から,ホロコーストの記憶に言及されることは多かったが,視覚表現の専門的な分析に基づいた研究は,我が国では極めて希であり,ジェンダーや人種の差異を考慮したものに至っては,ほとんど皆無といってよい。こうした研究の空白を埋める意義があるものと思われる。加えて,本研究は日本の美術界でも,ごく一部ながら見られる同様の傾向,すなわち日本のファシズムや被爆体験など歴史的過去に言及した作品を分析・評価するうえでの有用な参照枠を提供することにもなると期待される。⑤ インド近代絵画における朦朧体の受容について研究者:タゴール国際大学人文社会科学研究科研究生佐藤志乃日本における従来の近代美術史学は,主に西洋と日本の二つの軸を中心に構成され,特に近代日本美術史では,西洋との関わりという側面からの考察がほとんどであった。菱田春草と横山大観を例に挙げるならば,彼らによる朦朧体の表現については多くの研究が現れているが,それらもまた,西洋美術との関連に重点を置き,彼らの欧米に渡った体験を重要視してきた。そして,彼らの渡印と朦朧体との関連に着目することはなかった。しかし,彼らがインドに渡ったことで幾つかの成果を挙げたのは事実であり,彼らの渡印の目的と現地で得た成果,そして現地に与えた影響は,彼らの渡欧・-33-

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