⑦ ジャクソン・ポロックのカット・アウトシス•V・オコナー博士,申請者の指導教官であり高名な抽象表現主義の研究者であない祭礼図と,その祭礼の性格検討も重要な意義をもつものとして検討対象に含めたい。なぜなら,現在のこる絵画作品は,その制作すべての氷山の一角にすぎず,文献にしか名をとどめない作品も図様や技法はたどれなくとも,祭礼図の性格を明らかにするうえで,有益な示唆を与えてくれると思われるからである。研究者:ニューヨーク市立大学大学院博士課程大島徹也既に述べたように,従来1948-50年頃の作とされてきたポロックの《カット・アウ卜》は,実際には1956年のこの作家の死によって未完成のままに残されたものであり,それが彼の死後に,クラズナーによって現在の状態へと補完された。この申請者の新発見は,ポロックのカタログ・レゾネの編者にしてポロック研究の権威であるフランるニューヨーク市立大学ザ・グラデュエイト・センターのモナ・ハドラー教授,および日本における代表的なポロック研究者である武蔵野美術大学の藤枝晃雄教授によって,非公式にではあるが既に認められている。《カット・アウト》においてポロックが手をつけずにおいた部分は,その作品における最も重要にして困難な部分であり,それゆえにポロックはそこに手をつけられずにいた。そしてその部分に対する決断を下す前に,自動車事故によって期せずして他界してしまった。かくしてクラズナーによる《カット・アウト》の補完行為はタンパリング(不法変作)にも等しい深刻な問題であり,それゆえ現在の《カット・アウト》は,そのアイデンテイティが揺るがされかねない穏やかならぬ状況に直面している。これまで,マイケル・フリードをはじめとする多くの研究者たちが,従来の作者同定と年代確定に基づいてこのポロック作品について論じ,様々な解釈を打ち出してきたが,申請者の新発見によってその作品にはクラズナーが大きく介入していることが判明した以上,それらの解釈は本質的な見直しを迫られることになる。そしてその余波は《カット・アウト》がポロックのカット・アウト・シリーズの代表作である以上,同シリーズ全体に対する解釈にまで及び,それは続いてポロックというー作家全体の解釈にも影響を及ぼし得る。既に述べた通り,申請者は,自らの新発見に基づく《カット・アウト》に対する考-35-
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