学者,科学史家等の関心の対象でもあるため,本研究は他の学問領域にも貢献する際的な広がりを持つと考えられる。本研究はさらに,地図屏風が示す西洋的な認識の在り方が日本に置いていかなる認識を生み出したのかを検討する点でも独創的である。従来は詳細に取り上げられてこなかった,地図屏風の所蔵やそれに関する言説の変遷をも分析の対象とする点でも新しさがあると言えるだろう。⑮ 前田寛治の絵画観の推移に関する調査研究研究者:鳥取県立博物館学芸員竹氏倫子前田寛治は,自らが描くことについて,思想的な基盤,言葉による理由を切実に求めていた画家である。共産主義への接近やクールベヘの傾倒が注目されることが多いが,寛治の思想遍歴は,共産主義に始まったわけではない。その前には,コローに憧れて画家を志した少年期と,美の感受は宗教的喜悦に似るとして,内村鑑三に私淑した学生時代がある。また,晩年には「実在感の追求」を絵画の終局的な目標とし,意欲的に絵画論を執筆した。この度の調査研究では,寛治の思想的足跡を丁寧に洗い出すことによって,常に理論的支柱を持たざる得なかった画家と,その画家を生んだ時代の姿を見つめ直すことを目的としている。また,調査対象として扱う資料の多くが未発表・未公刊のものであり,中には新発見の書簡類や,長く所在が不明とされてきたノート類も含まれている。その内容と所在を明らかにすることも,今回の調査の要点の一つである。これらは前田寛治研究の基礎資料であり,データベース化が急がれる。近代日本の精神史を読み解くためにも,是非とも調査研究が必要な資料である。⑳ ジローナ・ベアトゥス写本の巻頭挿絵研究研究者:立教大学大学院文学研究科博士課程宮内ふじ乃ジローナ本は黙示録注釈書でありながら,福音書や独自のキリスト論に基づく書場面を巻頭に連続して配した特異な写本である。これら一連の巻頭挿絵は,今日まで図-51 -
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