像の源泉調査が行われてきたに過ぎず,ジローナ本に組み込まれた契機や意図,及び図像のレイアウトや全体の編成に関して殆ど議論されることはなかった。近年,中世美術は作品の社会的機能やその用途,さらには観者の役割をも含んだ幅広い視点で考察されるようになり,作品そのものに内含する意味の問い直しも活発に行われるようになってきた。これまで確実な比較作例がないこともあって,美術史の中では孤立した断片として扱われてきたジローナ本の巻頭挿絵がこのような新たな視点に立つと,実は同時代の政治戦略や宗教的倫理観の変化がどのように挿絵に影響を与え,典礼や特殊な説教が写本挿絵にどのような変化をもたらしたのかを具体的に議論することの出来る興味深い作品であることがわかる。こうした観点から,本調査研究は,これまで個別に論じられる機会が多かった個々の挿絵をシリーズとみなし,巻頭挿絵群の図像学的校正をその全体像において捉えることを目的とする。調査研究は次のような方法で行う。先ず,図像学的な分析をより高い精度で行い,図像選択の意図や画面構成の原則を解明する,そのためには,銘文や画中の多くの説明文と挿絵とを照合する手続きを行い,より精密に挿絵を解読する必要がある。同時にこれまで指摘され続けながら,具体的に議論されてこなかった,落葉部分にどのような主題が描かれていたのかを想定して巻頭挿絵全体の再構成を試み,研究の基礎とする。以上の考察を通して,挿絵の「典礼化」の問題が図像学的に示唆できると考えており,美術史上比類内特異な写本挿絵の装飾システムを本研究によって明らかにすることを目指す。⑰ 19世紀ヨーロッパにおける平戸・三川内焼の受容と現状—ジャポニスムの視点から一~研究者:長崎県政策調整局都市整備推進課博物館建設準備班学芸員19世紀は,日本における貿易当時の第2輸出期である。第1期は,伊万里焼(有田窯)が国際市場に日本の磁器として初めてデビューを飾り,ヨーロッパにおける磁器の製造開始の契機となった。一方,19世紀の貿易陶磁といえば,これまで伊万里,瀬戸,薩摩が注目を集めており,平戸・三川内焼の存在感は薄い。松下久子-52-
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