⑫ ルドルフニ世の宮廷におけるデューラー・コレクションとデューラー・ルネサンス扱うおもな対象はあくまで19世紀から20世紀の作品である。ただし,その分析の基盤として,研究は古代・中世・ルネサンスを通じて騎馬像が担ってきた意味内容の分類から始めたい。とくに「権威の象徴」「聖者」「死をもたらすもの」の3点に絞り,騎馬像が正負両面の価値を抱えてきたことを確認する。続いて,19世紀末から20世紀初頭に散見される,戦闘者としての騎馬像の分析にうつる。本研究ではグスタフ・クリムト《生きることは戦いである》と,ヴァシリー・カンデインスキーを中心とするグループ「青騎士」のイメージに着目する。前者は日本になる数少ないクリムトの大作であり,画家が保守的な批判に対抗して発表したと目されている作品である。クリムトのこの騎馬像を参照するならば,「青騎士」という前衛グループの騎手イメージが同様の背景を以て生まれた状況が見えてくる。「破壊」と「新生」の二重のイメージを担いながら,騎馬像は世紀の移り目を越えて継承されていったのである。このような展開を踏まえた上で,20世紀の騎手の代表とも言うべきマリノ・マリー二の作品を検証する。彫刻家みずから悲劇の象徴と呼んだ騎馬像だが,ユーモラスな雰囲気を失うことはなく,落馬像には「サウロの回心」の奇跡劇が重ねられてさえいった。本研究の最終目的は,こうした悲劇性と喜劇性,あるいは希望の感覚を共存させるマリーニの作品を騎馬像の系譜から解析することにある。作家の個人的な出自や芸術観,あるいは直接的な影響関係に縛られず,ひとつの図像・モティーフが長いときを経て育んでいったイメージを通して眺めたとき,かえってそれぞれの作家の個性と本質が浮彫りにされるものと思われる。研究者:近畿大学文芸学部特任講師平川佳世本調査研究の目的は,ルドルフニ世のもとに収集されたデューラーのオリジナル作品,および,彼の宮廷周辺で活動した画家たちによる「デューラー・ルネサンス」の諸作品の具体的な享受様態を明かにすることにある。ルドルフニ世によるデューラー作品の収集については,K.シュルツ等により,また,プラハの宮廷における「デューラー・ルネサンス」の概要に関してはT.D.カウフマン等の研究により明かにされている。しかし,それらが実際にルドルフニ世という個性豊かな美術愛好家のもと,ど-56-
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